VAGUE(ヴァーグ)

“きょうを、だいじに。”から読み解く、象印マホービン「炎舞炊き」と「EVERINO」が大事にしている本当の価値

「炎舞炊き」は、炊き立て至上主義の先にある現実を見ている

 毎日炊き立てのごはんを囲み、手づくりのおかずをそろえる。そんな理想通りにいかないのが現実の暮らしです。夜に炊いたごはんを翌朝のお弁当に使う日もあれば、家族の帰宅が遅く、食事時間がずれる夜もある。疲れて料理をする気力が残っていない日もあるでしょう。

「炎舞炊き」と「EVERINO」は、今期ともに大幅な刷新ではありません。それでも、炎舞炊きは炊き立てのおいしさだけでなく、時間が経ったごはんをどうおいしく食べるかという“保温”の価値をあらためて気づかせてくれました。

 一方のEVERINOは、一品調理をより手軽にする「うきレジ」の用途を広げています。

 新しさで驚かせるのではなく、今日のごはんを少しでもおいしく、少しでもラクにする。まずは、炊き立ての先にある日常を見つめた「炎舞炊き」から、その価値を読み解いていきます。

象印の圧力IH炊飯ジャー「炎舞炊き」NX-AB型。6つの底IHヒーターを部分的に加熱する「3DローテーションIH構造」により、釜内に複雑で激しい対流を起こし、米を舞い上げるように炊き上げる
象印の圧力IH炊飯ジャー「炎舞炊き」NX-AB型。6つの底IHヒーターを部分的に加熱する「3DローテーションIH構造」により、釜内に複雑で激しい対流を起こし、米を舞い上げるように炊き上げる

 象印の炊飯ジャー「炎舞炊き」は、同社の高級炊飯ジャーを代表するシリーズです。複数の底IHヒーターを制御し、釜の中でお米を舞い上げるように炊く。

 単に強い火力で加熱するだけでなく、部分的な集中加熱によって複雑な対流を生み出し、米一粒一粒に熱を伝えていく。名前の通り、炎が舞うようにお米を炊き上げる発想が、このシリーズの根幹にあります。

象印の新製品展示会会場の入口付近に掲げられていた「きょうを、だいじに。」というメッセージ。特別な日ではなく、何げない日常の時間をよりよいものにするという、同社のものづくりの姿勢が表れている
象印の新製品展示会会場の入口付近に掲げられていた「きょうを、だいじに。」というメッセージ。特別な日ではなく、何げない日常の時間をよりよいものにするという、同社のものづくりの姿勢が表れている

 炊飯器としての価値は、まず炊き上がりのおいしさにあります。これは言うまでもありません。おいしいごはんがあるだけで、食卓の満足度は大きく変わります。

 味噌汁と漬物、納豆、焼き魚、卵。決して豪華なおかずでなくても、ごはんがおいしいだけで「家で食べてよかった」と思える。日本の食卓において、主食の力はそれほど大きい。

 ただ今回、展示会で改めて面白いと感じたのは、炊き立てのおいしさだけではありませんでした。むしろ、炊いた後のごはんをどう保つか。つまり保温です。

 保温という機能は、炊飯器の中では地味に見えます。大火力や内釜の素材、炊き分け機能に比べれば、ニュースになりにくい。けれど生活者目線で考えると、保温ほど現実の食卓に密着した機能もありません。

3種類のごはんを食べ比べ。左は最もしゃっきり、右は最もやわらかくもっちり、中央は標準で炊き上げたもの。箸で取ったときのまとまり方から、口に入れたときのかたさ、粘り、粒感まで違いは明確で、ごはんの好みが家庭や人によって大きく異なることをあらためて実感した
3種類のごはんを食べ比べ。左は最もしゃっきり、右は最もやわらかくもっちり、中央は標準で炊き上げたもの。箸で取ったときのまとまり方から、口に入れたときのかたさ、粘り、粒感まで違いは明確で、ごはんの好みが家庭や人によって大きく異なることをあらためて実感した

 ごはんは炊き立てが一番おいしい。それは正しい。けれど、すべての家庭が毎回、炊き立てだけを食べられるわけではありません。

 夜に炊いたごはんを翌朝のお弁当に使う。家族の帰宅時間がずれて、遅い時間に食べる人がいる。子どもが部活や塾から帰ってきて、ひとりで夕食をとる。そういう日常は、どこの家庭にもあります。

 最近は、炊いたごはんはすぐ冷凍するのがいい、と言われることも増えました。確かに、炊き立てを小分けにして冷凍すれば、おいしさを保ちやすい。

 けれど、それを毎回できるかというと、現実はそう簡単ではありません。冷ます、包む、保存する、翌朝また温める。些細な手間ですが、毎日のことになると負担になります。

 だからこそ、保温の質を高めることには意味があります。

炊飯の工程を、予熱、中ぱっぱ、沸とう維持、蒸らし、保温に分けて紹介した展示。新たな「集中加熱蒸らし」では、ローテーションIH構造を活かした大火力と内ぶたのマット加工により、余分な水分を飛ばし、ふっくら弾力のあるごはんを目指す
炊飯の工程を、予熱、中ぱっぱ、沸とう維持、蒸らし、保温に分けて紹介した展示。新たな「集中加熱蒸らし」では、ローテーションIH構造を活かした大火力と内ぶたのマット加工により、余分な水分を飛ばし、ふっくら弾力のあるごはんを目指す

 炎舞炊きが見ているのは、炊き立てだけを食べる理想の食卓ではありません。炊いてから時間が経っても、できるだけおいしく食べたいという現実です。

 黄ばみやにおい、ベチャつきを抑え、食べるタイミングがずれても食卓の満足度を落としにくくする。これは、単なる保存機能ではなく、今日の食卓を崩さないための技術です。

 展示会では、炊飯器の内部構造やセンサー制御についても説明を受けました。温度を検知しながら保温を制御するだけでなく、蓋の開閉回数を検知し、ごはんがどれくらい減っているか、庫内環境がどう変化しているかを推定していく。

炊飯器内部の構造を可視化した透明モデル。温度を検知する複数のセンサーに加え、ふたの開閉回数を読み取る仕組みも備え、残っているごはんの量や庫内の変化を推定しながら保温時の加熱を細かく調整する
炊飯器内部の構造を可視化した透明モデル。温度を検知する複数のセンサーに加え、ふたの開閉回数を読み取る仕組みも備え、残っているごはんの量や庫内の変化を推定しながら保温時の加熱を細かく調整する

 つまり炊飯器は、ただごはんを温め続けているのではありません。食卓で実際にどう使われているかを見ながら、ごはんの状態を保とうとしているのです。

 これは、非常に象印らしい知性だと思います。

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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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