「旅なんて嫌いだ、でも……」アメージング・タイランドをめぐる、狂騒と静寂の5日間トラベルレポート
ースパイスと、リゾートと、かつての栄華とー(DAY 1)
旅なんて、嫌いだ。
海外旅行の移動にかかる時間は膨大で、「ああ…、この時間であれもできたのに。これもできたのに」と後悔しながら、目の前を過ぎていく非日常の景色に、焦燥に駆られることがある。タイパ・コスパを考えてしまう。つまり仕事病。いわゆるワーカホリックだ。
パズルのように緻密に組み上げた日常のルーティンは崩れ、精神も体もガタガタになっていくのがわかる。本来の不安定な自分に、戻っていく。
そこには知らない言語、知らない食べ物、知らない笑顔、知らない、知らない、がいっぱいある。
タイを訪れるのは、2回目。どちらも休暇が目的だ。羽田空港を飛び立ち、スワンナプーム国際空港へ降りると一目散にフードコート「MAGIC」へ。ヌードル、ライス、スパイス、チキンを腹にかきこむ。
特別な料理はない。だけど、「まずタイの家庭料理に近い味を感じるには、ここがいい」と同行のガイドは言う。食堂全体から香るスパイスの異物臭に、一瞬足が止まる。「何かいつもと違うぞ」と脳髄が無意識に反射しているのだ。

食堂全体を見渡し、おいしそうな料理を直感的に番号で注文する。そして食材を口に含んだ瞬間にビビッときた。いま旅をしている、と。
食後、バスとタクシーを乗り継いで、初日の目的地「パタヤ」に着いたのは現地時間の20時。日本とは全く違う道路事情。ガイドがいなければ、もっと移動に手間取っていたに違いない。
左右前後とも車間距離という概念のない、不安しか覚えない距離感で走るトゥクトゥクやバイクや乗用車に、欧米人、アジア人がぎゅうぎゅうと乗り込んでいる。
夜のパタヤは喧騒がすごい。いかにも東南アジアというイメージ通りの、ピンクにブルーに百花繚乱するネオン街。
しかし、「この30年ほどで街は活気を失ったね」と同行のガイドは言う。一体どこが?

ガイドがそういうのだから、間違いないのだろう。そう言われてみると、客引きの女性がぞろりと並ぶバーには、肝心の男性客が少なく、店員ばかりという店が目立つ。
気軽にちょっと入ってみようか、という気にはならない。呼び込みの“圧”がすごい。正直こわい。
路地にはバイクと人と大小さまざまな店舗がごった返し、カオスな様相を呈している。そんな繁華街を夢遊病者のように練り歩く。道路を渡りたくても滅多に歩道はない。歩道はあっても信号はない。
クルマもバイクも歩行者を優先する気などサラサラなく、スピードを緩めない乗り物らの隙を見て、強引に渡る。街を歩くだけで、なんてアドベンチャー。
ふと上を見上げると、縦横無尽に絡まったり、途中で切れたりした電線が見える。バチバチと音を立て、危険をこちらに伝えてくる。漏電、感電、待ったなし。街を歩けば、アドベンチャー。

注文したのはココナッツ風味のトムヤムクン系ヌードル。八角スパイスと適度な辛味の効いたスープとチキンが中華麺に絡まって、食欲が止まらない。そこで、昼もヌードルを食べたなと思い出す。これは旅の疲れを麻痺させる味だ。
ガイドの話を聞きながら食事。往来には欧米人らしき高齢男性が目立つ。
いわく、「彼らは若かりし30年ほど前のパタヤで、たくさんいいことを経験したんだよ。その記憶が忘れられないのかなあ」と、かつての栄華を誇った、東南アジアのリゾート地の生き字引なのだと言う。果たして本当だろうか。彼らはここに住んでいるのか、旅の途上なのか、たしかめる術はない。

栄枯盛衰。たしかに一見、彼らは寂しそうにも見えるし、逆に何者にも縛られず生を謳歌しているようにもうかがえる。よくわからないなと思う。
だけど屋台の店員から、けたたましい音を上げて往来を行くバイクから、歳を経た生き字引から、道端の物乞いから、まさに熱帯雨林のような熱と湿気を帯びた、何かドロっとしたエネルギーみたいなものを感じる。
知らない路地、知らないルール、知らない文化、知らない人生。知らない、がいっぱい。
旅なんて、嫌いだ。だけど、必要なのだ。生きていることを、実感するのだ。
イッツ・アメージング・タイランド!
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