自分でも分からない“理想の家”をAIが見つける!? 自宅写真をリクシルに見せてみた結果
「理想の家」を説明できないのは、筆者も同じでした
「どんな家に住みたいですか?」
日当たりがよくて、リビングが広くて、できればおしゃれな…。そこまでは言えても、「具体的には?」と聞かれると途端に難しくなります。家電の性能を説明する仕事を続けてきた筆者も、自分の住まいとなると話は別です。
2009年に家を買ったとき、筆者は建売住宅を選びました。更地から注文住宅の完成形を思い描くことができなかったからです。住み始めてから洗面所を改修し、外壁を塗り直し、玄関横に倉庫を作るなど、少しずつリフォームを重ねてきましたが、生活することで分かった希望も少なくありません。
そんな自分に当時見せたかったのが、2026年9月30日に先行体験した、LIXILショールーム東京の「住まいのAIシミュレーター」です。
自宅の写真からリフォーム後のイメージを生成する。ただし、面白かったのは画像の美しさだけではありません。「欲しいものが決まっていない人」を、どう住まいづくりへ導くか。その前後まで考えられていたのです。

キッチンを選ぶ前に、どう暮らしたいかを考える
LIXILが今回、LIXILショールーム東京の新たな顧客体験を開発した背景として掲げたポイントは、新築住宅価格の上昇と中古住宅の活用です。特に中古住宅を買えば、まずは前の住人がつくった空間に自分たちの暮らしを合わせることになります。
LIXIL CX部門ショールーム統括部 統括部長の岩根聡太郎氏は、「理想の暮らしを共に考えるパートナーでありたい」と話します。従来の商品比較・選定に加え、暮らしの輪郭を描き、空間を考え、最後に商品や仕様を選ぶという順番へ。新ショールームは、そのための場所です。
同社Design & Brand Japan ブランド&マーケティングストラテジー 統合マーケティング部リーダーの林佐江子氏は、家づくりを突き詰めると「どう生きていきたいか」という大きな問いになると指摘します。
寒い、使いにくいと思っていても、何を変えればよいか分からない。そんな人に必要なのは、商品カタログをもう一冊渡すことではありません。買い替え需要を待つだけでなく、暮らしを見直す動機から顧客と一緒につくる試みなのです。

「理想は?」ではなく「何に困っていますか?」
ここで「住まいのAIシミュレーター」の登場となるのですが、ショールーム体験はいきなりAIからは始まりません。まずは「愛すべき日常アイデアコーナー」で、家を受け継ぐ、子どもを迎える、子どもが巣立つといった場面から、自分の暮らしを考えます。
続いて、水まわりや窓、床、建具を組み合わせた空間展示へ。映像や音で人の気配まで感じさせ、設備を眺めるだけでなく、そこで過ごす時間を想像させます。さらに「Design Style」の9つのコーディネートから自身が求めている好みの方向を探します。
そのうえでようやくAIシミュレーターへ進みますが、ここにも工夫がありました。尋ねるのは、理想だけでなく「困りごと」。画面から選択肢を選んでいく仕組みです。
AIシミュレーターの開発のヒントは、ショールームのコーディネーターへの聞き取りからでした。「何を叶えたいですか」では答えにくくても、「何に困っていますか」なら人は話しやすいといいます。つまり、接客の知恵を質問へ落とし込んだのです。
AIへの指示を利用者に上手に書かせるのではなく、答えやすい問いを用意する。この段階から、AI開発の裏側には多くの人の仕事の関わりが見えてきます。

事務所の写真で試したら、いきなりつまずいた
筆者が持ち込んだのは、自宅ではなく戸建て事務所の写真です。生活感のある自宅を見せるのは少々ためらわれた、という事情もあります。古い住宅をインテリアスタイリストの窪川勝哉氏が改修した空間なので、もともと整っている点では少し“ずるい”素材でした。
ところが最初につまずきました。選択肢はキッチン、トイレ、洗面、浴室の4つ。持参したリビング写真に対応する選択肢がないのです。
スタッフと相談し、今回はとりあえず一番近い空間ということでキッチンを選んで試しました。好みのデザインは、あえて現在と異なるモノトーンの方向へ。結果としてはAIによりリビングのイメージも生成され、柔らかい印象の空間がクールな雰囲気へと変わりました。
生成自体は30秒〜1分程度。画面上でビフォー・アフターを比較でき、提案内容は印刷やPDF保存も可能です。
雑誌やSNSで眺める素敵な部屋は、あくまで他人の家です。それに対し見慣れた空間が変わると、「自分ならどう感じるだろう」という判断に近づけます。また、「落ち着いた部屋」などの曖昧な言葉も、画像があることで家族などとも具体的に話せそうです。

裏側はGemini。でも、全部がAIではありません
では、この仕組みはどうつくられたのでしょうか。開発をリードしたのが、同社 Design & Brand Japan ブランド&マーケティングストラテジー 統合マーケティング部 デジタルマーケティング戦略G 主査の山形まりこ氏です。
出発点はAIの導入ではなく、家づくりを考えた人が、どこで悩み、どう相談へ進むかという体験の整理でした。山形氏は「そこの言語化のプロセスをお手伝いできないか」と、本人の希望を家族や工務店へ伝える難しさに着目したと説明します。
山形氏がプロジェクトをまとめ、社内のデジタル部門や、住宅領域の開発に強みを持つ外部パートナーと連携。LIXIL住宅研究所向けに開発されていた技術も土台にしたといいます。
画像生成に使うのは、Googleの「Gemini」の画像生成技術です。ただし、そのまま任せるのではなく、LIXILの商品を正しく反映させるため、プロンプト、つまりAIへの指示を調整しています。
一方、「理想の暮らし」の診断や商品提案は別の仕組みです。山形氏は「そこはAIには基本的に頼らず、私たちの方でデータベースを持っている」と説明。回答に合う診断や商品を、その情報を基に提示します。
画像を描く能力と、何を提案するかという知識を分ける。人間だけですべてを処理するのでも、Geminiに提案を丸投げするのでもない。AIが得意な部分と、LIXIL自身が責任を持つ部分を切り分けていることが、今回の仕組みの大きなポイントです。

「一発で出す」ために、人間が何カ月も悩んだ
山形氏の開発談で印象に残ったのが、「完全に一発出し」という言葉でした。
自分で画像生成AIを使うなら、結果を見て「もう少し明るく」「床を変えて」と修正できます。しかし今回は、ショールームで質問に答えた利用者へ、まず一度で提案を見せる体験です。何往復もの調整を前提にはできません。
そのために、画像データベースの準備だけで1カ月以上。素材がそろってからの生成処理やプロンプト調整にも、約2カ月を要したといいます。基礎となる技術がすでにあっても、ここには時間がかかりました。
開発側で大量に生成してチェックし、LIXIL側へ共有。商品が正しく反映されているかは事業部と、色味や空間の仕上がりはデザイン担当者と確認し、修正を重ねたそうです。
山形氏は「商品が正しく反映されていることを最優先しつつ」、デザインの確認も重ねたと説明。「何度もフィードバックとプロンプトの調整を繰り返して、やっとここまで来た」と振り返ります。
利用者にとっては数十秒。その手軽さを成立させるために、人間が何カ月も手を動かしている。AIは魔法というより、専門家の地道な仕事を、誰でも使いやすい形で届ける道具なのだと感じました。
page
VAGUEからのオススメ
前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】