紅葉シーズンにピッタリ たったプラス730円で楽しめる“上質な列車旅” 早めの予約が必須な 秋の吉野を訪ねる「急がない特急」の魅力とは
大阪阿部野橋と飛鳥&吉野を結ぶ近鉄の観光特急
全国の私鉄のなかでも、長い路線網を持つのが近畿日本鉄道(近鉄)です。
近鉄の特急には、「ひのとり」や「しまかぜ」「あをによし」など、乗ること自体が旅の目的になるようなものが数多くあります。そのなかのひとつが「青の交響曲(シンフォニー)」です。
2016年にデビューした青の交響曲は、大阪阿部野橋駅と吉野駅を結ぶ観光特急です。大阪から奈良県の飛鳥や吉野へ向かう列車で、所要時間はおよそ1時間20分。基本的に水曜日を除いて運行し、1日2往復しています。

JR天王寺駅に隣接し、日本2位の高さを誇る「あべのハルカス」の足元にある近鉄・大阪阿部野橋駅。10時10分発の第1便に乗るためホームへ向かうと、列車は発車の15分ほど前にはすでに入線していました。
通勤電車が行き交うホームのなかで、深いロイヤルブルーの車体と金色のラインはひときわ目を引きます。車両は旧6200系の通勤車を改造したものだそうですが、外観からは古さを感じさせません。ただ、前面を見ると、元の車両の面影が残っているのもわかります。
ドアが開いて乗り込むと、落ち着いた内装が迎えてくれます。停車中には、ハイドンの「交響曲第101番『時計』第2楽章」が流れます。これは駅のホームから流れているのではなく、車両間の連結部分に設けられたミュージックホーンから聞こえてくるというのも、ちょっとしたこだわりです。
青の交響曲のコンセプトは「上質な大人のための小旅行」。3両編成のうち、客室は1号車と3号車で、中央の2号車はラウンジスペースとバーカウンターに充てられています。
座席は2列+1列の配置。今回は2人用のツイン席を予約しました。グリーンのシートは手触りがよく、クッションにも厚みがあります。隣には3〜4人で利用できるサロン席があり、木製のテーブルと落ち着いた照明が、一般的な特急とは違う雰囲気をつくっています。座席数は少ないものの、1人用の席も用意されているので、ひとり旅でも利用できます。
定刻どおり大阪阿部野橋駅を出発。車内を見回すと、この日は日本人の乗客が多いのが印象的でした。以前に乗った近鉄特急「あをによし」では、アジア系の旅行客が目立っていましたが、こちらはちょっと違う様子です。席はすべて埋まっています。
乗車したのは9月下旬の休日。紅葉の季節にはまだ早く、飛鳥や吉野を訪れる観光客も、京都や奈良の中心部ほど多くはないのかもしれません。

列車が速度を上げると、窓の外の景色は住宅地から田園地帯へと変わっていきます。遠くに大和三山が見えてくるころには、すっかり旅気分になっていました。
2号車のラウンジスペースにも足を運んでみました。壁面には吉野杉を使った装飾が施され、木の温もりが感じられます。大型のバーカウンターでは、コーヒーやケーキセット、柿を使ったスイーツなどを販売。沿線の地酒やワインなども用意されています。
まだ午前中ですが、ラウンジでは年配のグループがお酒を楽しんでいました。窓の外の景色を眺めながら、ラウンジでひと休みする。移動時間そのものを楽しむという、この列車のコンセプトがよくわかる光景です。
モーター音も停車駅の多さも個性 秋の吉野へ
もっとも、乗ってみると気になる点もあります。
大阪阿部野橋駅から吉野駅までの間には、尺土、高田市、橿原神宮前、飛鳥、壺阪山、吉野口、福神、下市口、六田、大和上市、吉野神宮といった駅があります。特急とはいえ停車駅は多く、駅を発車するたびに通勤列車のような加速感があり、モーター音もそれなりに響きます。

ゆったりとしたシートやクラシカルな内装から、静かで優雅な乗り心地を想像すると、少し印象が違うかもしれません。とはいえ、上質な座席に腰掛け、窓の外の風景を眺めながら移動する時間には、やはり独特の魅力があります。速さを競う列車ではなく、移動そのものを楽しむ列車なのだと思います。
途中の飛鳥駅では、乗客のおよそ3分の1が下車しました。さらに南へ進むにつれて景色は山深くなり、列車は吉野川に沿って走ります。終点の吉野駅に到着してホームに降りると、空気がひんやりとしていて、山の香りが漂っていました。大阪からそれほど離れていないのに、ずいぶん遠くまで来たような気がします。
駅前にある千本口駅からは、吉野山へ向かうロープウェイに乗ることができます。吉野山駅で降りれば、世界遺産にも登録されている吉野山の参道がすぐ目の前です。今回は紅葉にはまだ早い時期でしたが、春には桜、秋には紅葉を目当てに多くの観光客が訪れます。山の木々が赤や黄色に色づくころには、沿道の寺社や山並みもまた違った表情を見せてくれるはずです。
吉野山駅からは、高さ約34mの木造大建築である国宝・蔵王堂や国宝の仁王門がある修験道の根本道場「金峯山寺」、後醍醐天皇の南朝皇居だった吉水神社など、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の神社仏閣が点在しています。途中、オシャレなカフェや、食事処も多くあるので、ゆっくりと見て回れます。ただし上り坂がキツいので、歩きやすい靴のほうがオススメです。
帰りも青の交響曲に乗車しました。吉野駅を16時03分に出発する第4便です。夕方の車内は、行きとは少しだけ雰囲気が違います。車内の照明が落とされ、ラウンジのテーブルランプには温かな光が灯ります。外が夕闇に包まれていくなか、車内だけに柔らかな光が広がっていました。

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気になる料金ですが、大阪阿部野橋駅から吉野駅までの普通運賃は大人片道1170円。これに特急料金520円と特別車両料金210円を加え、合計1900円です。つまり、普通運賃に730円をプラスするだけで、青の交響曲に乗車できます。
運行は原則として水曜日を除く毎日で、大阪阿部野橋駅を10時10分と14時10分に出発する吉野行き、吉野駅を12時34分と16時03分に出発する大阪阿部野橋行きが設定されています。吉野発12時34分の便は土休日には12時35分発となるなど、一部の時刻は曜日によって異なります。
予約は近鉄の駅窓口やインターネットのチケットレスサービスなどで受け付けており、特急券は乗車日の1か月前から購入できます。
3両編成で座席数が限られているため、紅葉シーズンに乗車する場合は早めに予約しておくほうがよさそうです。運行日や時刻は変更される場合もあるため、乗車前に近鉄の公式サイトで確認しておきたいところです。
青の交響曲は、移動時間を短縮するための列車というより、移動する時間そのものを楽しむための列車です。大阪から吉野まで、片道730円の追加料金で過ごせる約1時間20分。秋の吉野山を歩いたあと、帰りの車内で窓の外を眺めながら過ごす時間も、旅の記憶のひとつになりそうです。
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