VAGUE(ヴァーグ)

鎌倉三大洋館の一つでスペイン料理! 110年前の「古我邸」で、広い庭と別荘建築を楽しむ

 初めて来た場所なのに、なぜか落ち着く雰囲気がある、レトロ建築のカフェやレストラン。職人の技が光る壁の模様や飾り、大正ガラスの窓など現代では再現できない繊細な建築美を眺めるのはもちろんですが、何度もペンキを塗り重ねられた結果、でこぼこしている窓枠や腰板、柱に残る傷や凹みなどを眺めつつ、この建物に集ったであろう古き良き時代の人々に思いを馳せるといった楽しみも。

 そんな、ノスタルジックなカフェやレストランで、ゆったりとした時間を過ごしてみませんか。

緑の庭にたたずむ、黒い外壁が印象的な古我邸
緑の庭にたたずむ、黒い外壁が印象的な古我邸

1916(大正5)年に建てられた、戦前の鎌倉別荘建築を代表する山小屋風の洋館

 鎌倉駅から徒歩約5分、住宅街の中にある大きなお屋敷が「古我邸」。扇ガ谷の谷戸を敷地として建つ大規模な別荘で、鎌倉文学館、旧華頂宮邸と並ぶ鎌倉三大洋館の一つです。

 江戸時代末期、横浜の居留地に住む外国人が、避寒や避暑、海水浴ができるリゾート地として鎌倉に訪れるようになった後、1889(明治22)年に現在の横須賀線が開通。当時は皇族や華族、富裕層が洋風建築の別荘を鎌倉に持ち、西洋館が建ち並ぶ美しい別荘地となったそうです。

 「古我邸もそうした時代の中で、三菱合資会社(後の三菱財閥)の専務理事兼管事をしていた、荘 清次郎(しょう せいじろう)の別荘として、旧三菱銀行本店や丸ノ内ビルディングの設計を行った桜井小太郎が15年もの歳月を費やし、1916(大正5)年に完成させたものです。

 桜井小太郎は、日本の近代建築家を数多く育成したジョサイア・コンドルの弟子として、丸ノ内のオフィス街開発に尽力をした建築家なんですよ」とレストランオーナー。

 古我邸には、内閣総理大臣を務めた濱口雄幸や近衛文麿が、三菱から建物を借り受け、別荘として利用していたことや、戦後GHQに接収され、将校クラブとして使われていた歴史もあるそうです。

 1937(昭和12)年に古我貞周氏が取得して以来、鎌倉では「古我邸」という呼び名で親しまれてきました。その後、2015年に改修工事を行いレストランに大規模リニューアル。現在に至ります。

 建物は木造2階建て、洋小屋組(クイーンポスト・トラス)。山小屋風のシンプルなデザインですが、最大の特徴は外壁のシングル張り(木材を薄く割った柿板(シングル)を、外壁や屋根に下見板状に重ねて張る工法)。1880〜90年のアメリカで盛んだった様式です。

 現在はスペイン料理のレストランですが、庭の美しさ、そして建物の荘厳さなどから、ウェディング利用も多く、四季を感じる料理と庭の風景に、多くの人が訪れます。

 「この雰囲気から、ドレスコードがあるんじゃないかとか、完全予約じゃないかと躊躇して、入ってこない人もいるんですが、特に20代、30代の若い方達は、その躊躇を飛び越えて店に来てほしいですね。門の前にメニューを置いてあるんですが、コーヒーは350円なんですよ。なので、庭を見て、コーヒーを飲んで過ごしてもらうだけでもいい。レストランに食べに来るのはまだ若くて早いけれど、いつか入れるようになろう、といった、どこか大人の階段を登るような気持ちで。いつかいいお店に入れる自分になろう、エスコートできる大人になろう、というね」とレストランオーナー。

 ※以上は取材時の発言です。公式カフェメニューのコーヒー価格は300円(税込、2026年10月17日確認)。

 一度入ったら、その雰囲気とゆったり流れる時間に、誰もが惹きつけられる、旧古我邸のおすすめ料理を紹介します。

「富士の介サーモン アホブランコ」。取材時のディナーコース15,000円の一皿。料理は季節によって変わる
「富士の介サーモン アホブランコ」。取材時のディナーコース15,000円の一皿。料理は季節によって変わる

コース料理の前菜の一品・「富士の介サーモン アホブランコ」

 レストランは、ランチ7500円〜、ディナー15,000円〜のコース料理になっています。取材時に紹介いただいた前菜「富士の介サーモン アホブランコ」は、キングサーモンとニジマスを掛け合わせて山梨県で開発された“富士の介”を低温調理し、ニンニクとアーモンドで作る、スペインの伝統的なスープ“アホブランコ”と合わせたもの。料理は季節によって変わります。

 サーモンの上に乗っているのは、ベニエ生地に包んだそら豆と甘海老。そら豆はカレー風味に、甘海老にはニンニクマヨネーズを敷いて香り付けをしています。

 お皿の両端に添えられているのは「マルコナアーモンド」。豊かな風味と深い味わいから、アーモンドの女王とも呼ばれています。

 「豆はちょっと中に入れて、食感を楽しんでほしいですね」とシェフ。繊細な一皿です。

取材時のデザート、スペイン風トライフル。「ポルボロン」はスペイン・アンダルシア地方の焼き菓子
取材時のデザート、スペイン風トライフル。「ポルボロン」はスペイン・アンダルシア地方の焼き菓子

パイナップルやポルボロン入り、スペイン風トライフル

 「イギリスの皿盛りのお菓子で、スポンジと生クリームとメレンゲのクッキーが使われているんですが、それをスペイン風にパイナップルやオレンジチョコレート、そしてスペインの焼き菓子『ポルボロン』を砕いてのせたものです」とパティシエ。

 上に飾られている葉はハーブのレッドソレル。爽やかな酸味が特徴です。ラズベリーの赤、レッドソレルの緑、クリームの白、パイナップルの黄色など、色合いも華やかなデザートになっています。

 「おすすめの時間帯は夕方、まだ明るい時間帯に来て、デッキでコーヒーやお酒を一杯飲んで、それから食事、というのがいいですよ。暮れゆく時間を庭にいながらゆったり過ごしていただきたいですね。

 当店はスペイン料理に変わってから2年目なんですが、スペイン料理はお米もあるので、とても日本人に食べやすい、好きな味だと思います。なので、さっきもお伝えしましたが、若い人たちにとって、ちょっと高めの敷居を乗り越えて、たとえば特別な日に、思い出作りに、自分へのご褒美になど、いつか食べに行こうと思ってもらえるようなレストランでありたいと思っています」とオーナー。

 ※スペイン料理に変わってからの年数は取材時点の発言です。

 ちなみにドレスコードはあるんですか? と聞くと「ビーチサンダルはやめておいた方がいいですよ。とは言っています」とにっこり。それは、店のルールというわけではなく、ビーチサンダルなどラフすぎる格好で来ると、ちょっと恥ずかしい、嫌な思いをしてしまうこともあるので、とのこと。値段相応の格があるからこそ、それなりにオシャレをして食べにいくのが良さそうです。

 広い庭、そして木造の大きな建物。110年前に建てられた当時の面影を今も残す、旧古我邸。ランチ・ディナーの他、カフェタイムもあり、彩り豊かなタパスと一緒に、スペインワインやビールを飲みながら愉しいひと時を過ごせます。

 観光で賑やかな鎌倉ではなく、別荘地として栄えた時代に思いを馳せながらスペイン料理をゆったりと楽しむ。まさに、特別な日に訪れたいレストランでした。

店舗情報
「古我邸」
住:神奈川県鎌倉市扇ガ谷1-7-23
TEL:0467-22-2011(受付時間11:00~21:00)
営:ランチ11:00〜15:00(最終入館13:30)、ディナー17:30〜21:00(最終入館19:00)、カフェ11:00〜日没(季節営業3〜12月、最終入館16:00。悪天候時は休業)
休:火曜・水曜

Gallery 【画像】110年前の洋館「古我邸」と庭、スペイン料理を見る

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