ベントレー「フライングスパーW12」の美しさと速さと乗り味に驚愕「EV時代へ語り継ぎたい12気筒の味わい」とは
加速力や静粛性だけでないW12ならではの深い味わい
スタートボタンを押すと、短いクランキングで6リッターW12エンジンが始動した。さすが12気筒。振動はほとんどない。

しかし入念に観察すると、ほんのわずかな振動を感じた。いや、振動ではなく鼓動といった方が正確だろう。ザラザラとかブルブルといった不快な振動ではなく、強大なエンジンルームのなかでエンジンが生き物のように脈打つ。そのわずかな動きがクルマをまるで生き物のように思わせる。意図してつくりだしたものではないだろうが、僕にはEV(電気自動車)では決して味わえない生命感として、とても貴重なものに思えた。
少し重めのアクセルペダルを踏み込むと、強大なトルクが2.5トンのボディをなめらかに、そして力強く押し出す。それもそのはず、エンジンのスペックは635ps/5000〜6000rpm、900Nm/1350〜4500rpmという驚くべきもの。だが、ちょっと身構えてしまいそうなスペックとは裏腹に、走りに荒々しさはまったくない。あり余るパワーとトルクを、ドカンとかグワッとかいう暴力的な速さではなく、あくまでスムーズでジェントルなフィーリングに使っているのだ。しかも常用回転域ではエンジン音はほぼ聞こえてこない。この躾(しつけ)の上品さはドイツ車とは一線を画す。同系列のプラットフォームを使うポルシェ「パナメーラ」とはまるで別物だ。
低回転域から発生する超フラットで厚みのあるトルクと極上の静粛性となれば、EVの走りを連想するかもしれない。それは、半分は当たっているが半分は間違い。ゆるい加速程度であればほぼ無音を貫くW12だが、それでも遠くの方からかすかなハミング音が聞こえてくるからだ。
しかも8速DSGの変速に合わせてハミング音が微妙に変化し、加速フィールにアクセントをつける。モーターの視点から見れば、トランスミッションによる変速なんてものはあくまでエンジンの弱点を補うための解決策に過ぎないのだが、こうして実際に味わってみると、メトロノームではないけれど運転のリズムを整える役割を果たしているんだなと思った。

EVとの違いをもっとも強く感じたのは、高速道路でフル加速したときだ。ポルシェ「タイカン」のような高性能EVは“踏んだ瞬間の加速”がスゴい。一瞬の遅れもなく即座にトルクが立ち上がり、ドンッと体がシートにめり込む。フライングスパーW12にはそこまでの瞬発力はないが、加速の伸び感に限ってはエンジンの方が上だ。
さっきまで粛々と回っていたW12は、回転が上がるにつれて痛快な咆哮を発しはじめ、トップエンドに向かってドラマティックにのぼり詰めていく。普段はジェントルに、だが、いったんコトが起こったら勇敢に戦う。そんなイギリス貴族の世界観を垣間見た気がした。
もちろん、勇敢なる加速は日本では一瞬で終わらせなければならないが、アウトバーンにもっていけばこの恍惚の加速をより長く味わえる。状況さえ許せば、という但し書きが必要だが、最高速度は333km/hと発表されている。
* * *
フライングスパーW12に乗って12気筒エンジンの素晴らしさを再確認したと同時に、こんな素晴らしいものを人類が手放そうとしていることに一抹のさびしさを覚えた。EVでこの感覚をつくり出すのがいいのか、はたまた、カーボンニュートラル燃料でエンジンそのものを残していくのがいいのか。まだ結論は出ていないが、どちらになるにせよ、若き自動車エンジニアたちはたとえ1時間や2時間でもいいから、こういうクルマに乗ってその素晴らしさを体に刻みつけておくべきだろう。将来、EV開発を担当することになったとしても、フライングスパーW12が与えてくれる驚きは必ずや人の心を打つクルマづくりに役立つはずだ。
●BENTLEY FLYING SPUR W12
ベントレー フライングスパー W12
・車両価格(消費税込):2780万円
・全長:5325mm
・全幅:1990mm
・全高:1490mm
・ホイールベース:3195mm
・車両重量:2540kg
・エンジン形式:W型12気筒DOHC+ターボ
・排気量:5945cc
・駆動方式:4WD
・最高出力:635ps/5000〜6000rpm
・最大トルク:900Nm/1350〜4500rpm
・サスペンション:(前)4リンク式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ベンチレーテッド・ディスク
・タイヤ:(前)275/35ZR22、(後)315/30ZR22
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