せっかちなはずの富裕層が3年待つ「ランドローバーの正体」とは? ポルトガルの小さな工房が生み出すレストモッド車両は“走る芸術品”
完璧な内外装が一体となった“走る芸術品”
多くの富裕層は“待たされる”ことを嫌います。時間を重んじ、欲しいものはすぐにでも手に入れたがる人たちだからです。にもかかわらず、差別化のためなら辛抱強く“待つ”ことができるのがレストモッドの世界。
選択肢(供給元)が複数あるときは待てないけれど、選択肢がひとつ、もしくは極端に限られた場面においては、とことん待てる……それが富裕層の面白い一面かもしれません。
納車まで3年ほどかかるといわれているクラシック・ランドローバーのレストモッドは、その好例といえるでしょう。
ポルトガルの首都であるリスボンに拠点を構えるクールンヴィンテージ(Coolnvintage)は、創業者リカルド・ペッソアが2012年に立ち上げたクラシック・ランドローバー専門のレストモッドスタジオです。
1948年から1980年代にかけて製造されたシリーズモデル、そして「ディフェンダー」の前身である「90」、「110」シリーズを主な対象に、圧倒的な完成度を誇るレストモッド車両を世に送り出しています。
ペッソアは自他ともに認める完璧主義者で、彼が目指すのは完璧なパネル精度、欠点のない塗装、そしてオーダーメイドの内装が一体となった“走る芸術品”。だからこそ、富裕層は待てるのでしょう。
17名のチームが手がける作業は、まずはすべてのナット、ボルト、ワッシャーに至るまで取り外して写真に収め、ラベルを貼って袋に入れ、箱に保管するところから始まります。

イギリスの経営コンサルタント会社であるカイゼン・インスティテュートを招いてワークフローを最適化したほどで、その徹底ぶりは一般的なレストモッド業者のレベルをはるかに超えていると評されています。
●レストモッド作業中の“顧客体験”へのこだわりが人気の秘密!?
レストモッドは1台ごとに異なる完全なるワンオフ仕様です。ボディカラー、内装素材、エンジン(ランドローバーの純正エンジンが条件)、そしてトランスミッションの種類まで、すべてをオーナーが自由に選ぶことができます。
サビたシャシーは必要に応じて溶融亜鉛メッキ処理を施した新品に換装し、ボディパネルはオリジナルの品質基準に合わせて修復または製作し直します。
最終組み立て前には必ず仮組みチェックをおこない、パネルギャップはミリ単位で調整。ドアの開閉感から走行中の静粛性まで。徹底的に追い込みます。
5000ドル(約81万円)で仕入れたジャンク車が高級車へと変貌するわけですが、塗装費だけで素材購入費の5倍に達することもあるといいますから驚かされます。
現在の価格帯は20万ドル(約3253万円)からで、納車待ちは約3年。年間の生産台数はわずか約10台という希少さです。この希少性もまた、富裕層が待つ覚悟を決められる大きな要因となっているのでしょう。
そんなクールンヴィンテージが他のレストモッド業者と一線を画すのは、レストモッド作業中の“顧客体験”へのこだわりにあります。
3年という長い待ち時間の間、ペッソアは顧客の愛車から取り外した部品ひとつひとつを美しいアート写真として撮影し、大判のフレームに入れて送り届けます。
そして納車時、顧客に手渡されるのが1枚のレコード盤。完成したエンジンの初始動音をレストモッド車両の“誕生の瞬間”としてアナログレコードに録音しているのだとか。なんとも粋な演出ですね。
かつてランドローバー車は、戦場、農場、工事現場などで活躍する“働く道具”でした。それがいまや、アメリカ・ロサンゼルスからフランス・サントロペまで、世界中のセレブが渇望するアイコンへと化けています。
「ディフェンダー」の前身の無骨なクラシック・ランドローバーの“白いキャンバス”に芸術を描き続けているのが、リスボンの完璧主義者というわけです。
3年の待ち時間すら、彼の世界観を体験する旅の一部となっているのです。富裕層を虜にするのは商品ではなく、体験であることを実感させてくれるレストモッド車両です。
VAGUEからのオススメ
海と向き合い、自らを再起動する――プロセーラーが語る、シチズン「プロマスター」で“限界を超える”意味とは【PR】