なぜ日産は“アルヴェル路線”を選ばなかった? 新型「エルグランド」のデザインから見えてくる独自の開発思想
王者を追いかけるのではなく自らの価値を磨くという選択
高級ミニバン市場では、いまやトヨタの「アルファード」と「ヴェルファイア」がひとつの基準となっています。堂々としたフロントマスクや圧倒的な存在感は、ライバル車のルックスにも少なからず影響を与え、カテゴリー全体のデザインの方向性を決定づけてきたといっても過言ではありません。
そんななか、2026年夏に発売が予定されているのが、4代目となる日産「エルグランド」です。約16年ぶりとなるフルモデルチェンジで、新型は第3世代“e-POWER”や最新の電動駆動4輪制御技術“e-4ORCE”を採用するなど、デザインだけでなくパワートレインやシャシーなども刷新。日産は“プレミアムグランドツーリングミニバン”という新しい価値を掲げ、快適性だけでなくドライバーが運転を楽しめるモデルとして世に送り出す構えです。
しかし、新型エルグランドで興味深いのは、そうしたスペックだけではありません。
すでに公開されているエクステリアデザインから読み取れるのは、“「アルファード」に似せる”という成功への近道を選ばなかったという事実です。高級ミニバンは、どうしても「アルファード」や「ヴェルファイア」と比較されがち。だからこそ、ライバルに近いデザインを採用するという考え方もあったはずです。それでも日産は、違う道を選びました。その理由はどこにあるのでしょう?
本記事では、新型「エルグランド」のデザインをフックに、日産が目指す高級ミニバンの姿を読み解いていきます。

現行のE52型「エルグランド」は2010年に誕生しました。これまで何度か改良の手が加えられてきましたが、その基本設計は16年にわたって不変。その間、「アルファード」と「ヴェルファイア」は世代交代を繰り返し、高級ミニバン市場の主役へと上り詰めています。
こうした現状を見ると、新型「エルグランド」は単に新しい世代へとモデルチェンジを果たすというだけでなく、「エルグランド」というブランドをもう一度立て直すという使命を担っているように思えてきます。
実際、日産は新型を“プレミアムグランドツーリングミニバン”と位置づけています。これは、後席の快適性だけを追求するのではなく、ドライバー自身がステアリングを握って走る楽しさを味わえるなど、高級ミニバンの価値を再定義しようという考え方ともいえます。第3世代“e-POWER”や進化した“e-4ORCE”の採用も、そうした思想を支える技術といえるでしょう。
つまり新型「エルグランド」は、豪華な送迎車ではなく移動そのものを楽しめるプレミアムカーを目指しているのです。
このねらいを踏まえると、デザインの見え方も変わってきます。
●アルヴェルとは異なる“威厳”の生み出し方
新型「エルグランド」を初めて見たとき、多くの人は「迫力はあるのに威圧感が少ない」と感じるのではないでしょうか。
もちろん、大型グリルは装着されています。しかし、その表現方法は、アルヴェルとは少し異なります。フロント全体は水平基調でまとめられ、ヘッドライトからグリルへと自然につながる造形が、力強さよりも安定感を演出します。
グリルには、日本の伝統工芸である“組子”をモチーフとしたパターンを採用。日産はこうしたデザインを通じて、日本らしい美意識と先進性を融合させたプレミアム感を表現したと説明しています。
ここで注目したいのは、迫力と威厳は似ているようで異なるものであるという点。迫力は相手を圧倒する力である一方、威厳は自然と周囲に敬意を抱かせる存在感ともいえます。

新型「エルグランド」のデザインから感じられるのは、まさに後者。大きなグリルで存在感を誇示するというよりも、面の構成や光の表現、そしてプロポーション全体で上質さを演出しようとしているように感じます。
だからこそ新型「エルグランド」は、第一印象から、「アルファード」とは違うモデルであると感じられるのではないでしょうか。
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