VAGUE(ヴァーグ)

ボタンひとつの「おいしい」は、誰かが何度も食べてつくっていた。炊飯器と電子レンジの中に宿る、人の舌と暮らしの記憶

変わらない外側の中で、変わり続けるもの

 加古さんの言葉で、いちばん強く残ったものがある。

「毎年発売される炊飯器の外観は、正直同じように見えるかもしれません。でも、お米が毎年変わるので、中身は実は結構変えています。特にこの3、4年はお米の状態が大きく変わったので、制御やソフトの部分は毎年かなり見直しています」

 家電を記事にする側として、耳が痛かった。

 私たちは、見た目が変わったか、新しい機能名があるか、わかりやすい違いがあるかで製品を見てしまう。外観が同じなら、今年は大きな変化がないと思ってしまう。

 しかし現場では、米が変われば、炊き方も変わる。気候が変われば、制御も変わる。生活者の好みが変われば、目標も変わる。

 外からは同じに見える炊飯器の中で、毎年のように静かな更新が行われていた。

 それは派手なニュースにはなりにくい。だが、毎日ごはんを食べる人にとっては、とても大きな進化である。

炊飯器と計測機器、PCが並ぶ評価環境。外観は大きく変わらなくても、米の状態や食のトレンドに合わせて、制御やソフトの部分は静かに見直されている
炊飯器と計測機器、PCが並ぶ評価環境。外観は大きく変わらなくても、米の状態や食のトレンドに合わせて、制御やソフトの部分は静かに見直されている

人の舌が、最初の異変を見つける

 実験室では、ごはん粒を測定する機械も見せてもらった。

 炊き上がった米粒を取り、機械でつぶす。どれくらいの力がかかったかを測る。硬さ、粘り、食感。人が噛んで感じるものを、数値として確かめる。

 だが、加古さんはデータを先に置かない。

「官能評価が基本です。食べるものなので、人が評価します。硬さや糖の量なども測りますが、人間の方が感度が高いんです。人間が差を感じたものは、機械でもだいたいデータとして出ます。だから、人が感じた食感を、データで表現していく形ですね」

 まず、人が食べる。違いを感じる。その違いを、あとからデータで追いかける。

 AIやセンサーの時代には、少し逆説的に聞こえるかもしれない。だが、食べるのは人間だ。ならば最後の判断も、人間の中に残る。その感覚をどう組織で共有し、どう再現できるようにするか。Cooking @Labの仕事は、そこにある。

炊き上がったごはんを取り分け、評価に回す工程。硬さや粘り、食感といった人が口で感じる違いを、官能評価とデータの両面から確かめていく
炊き上がったごはんを取り分け、評価に回す工程。硬さや粘り、食感といった人が口で感じる違いを、官能評価とデータの両面から確かめていく

“優等生”と呼ばれるごはんの覚悟

 パナソニックの炊飯器のごはんは、しばしば「優等生」と評される。

 強烈な個性があるわけではない。圧倒的な甘みや、極端な粘りで驚かせるわけでもない。記事を書く側からすると、言葉にしづらいこともある。

 しかし加古さんは、その評価を否定しなかった。

「私たちが目指しているのは、日本人の誰もがおいしいと思うごはんです。だから、目立った特徴がない、優等生だと評価されることがあります。でも開発者としては、設計した通りに評価してもらえているとも思っています」

 優等生とは、弱点ではなかった。それは、狙ってつくられた品質だった。

まず人が食べて感じた違いを、機械で数値として確かめる。人の舌とデータの両方を行き来しながら、おいしさの基準を積み上げていく
まず人が食べて感じた違いを、機械で数値として確かめる。人の舌とデータの両方を行き来しながら、おいしさの基準を積み上げていく

 炊きたてだけではない。保温後、おにぎり、冷めたごはん。硬めが好きな人、柔らかめが好きな人、粒立ちを求める人、粘りを好む人。どの場面でも、どの人にも、大きく外さない。

「どこにも落とし穴のない優等生」

 加古さんの言葉は、パナソニックというメーカーの本質を、そのまま言い表しているように思えた。

 目立つ個性で驚かせるのではない。毎日、誰かの食卓で静かに外さない。そこに覚悟がある。

ボタンの向こう側に、人がいた

 レンジの現場には、評価基準をまとめた分厚いファイルがあった。焼き色、外観、食感、仕上がり。メニューごとに基準があり、開発者が変わっても判断がブレないようにしている。

 炊飯器の現場では、銘柄米ごとの食味を複数人で評価し、物差しを合わせていた。誰が食べても同じ方向へ評価が向かうよう、何度も食べ、言葉をすり合わせていく。

 明石さんは言った。

「1人でやっていると、どんどんドツボにはまることがある」

 人の感覚を大切にする。しかし、個人の好みに閉じ込めない。食べる。測る。話す。記録する。次の人へ渡す。

 その積み重ねが、家電の中に入っていく。

 ボタンひとつの「おいしい」は、機械だけがつくっているわけではなかった。そこには、人の舌があり、暮らしの記憶があり、何十年分もの試行錯誤がある。

 電子レンジは、名前のない料理を受け止めようとしていた。炊飯器は、毎年変わる米と日本人の好みを見極めようとしていた。

 どちらにも共通していたのは、目立たないけれど、日々の食卓を外さないための仕事だった。

 家電の進化は、派手な言葉だけでは語れない。

 現場に来て、ようやくわかった。ボタンを押したその先にある「おいしい」は、誰かが何度も食べて、何度も悩んで、少しずつ家電の中に入れてきたものだった。

白衣に入ったPanasonic Cooking @Labのロゴ。ボタンひとつで生まれる「おいしい」の奥には、人が食べ、測り、話し合い、次の人へ知見を渡していく現場があった
白衣に入ったPanasonic Cooking @Labのロゴ。ボタンひとつで生まれる「おいしい」の奥には、人が食べ、測り、話し合い、次の人へ知見を渡していく現場があった

製品概要
パナソニック 可変圧力IHジャー炊飯器 ビストロ SR-X910E/SR-X918E
価格:オープン価格
カラー:ブラック、ライトグレージュ
タイプ:可変圧力IHジャー炊飯器
炊飯容量:SR-X910E 0.5〜5.5合/SR-X918E 1合〜1升
内釜:ダイヤモンド竃釜(遠赤ダイヤモンドプレミアムコート/5年保証)
加熱方式:大火力包み加熱
主な機能:ビストロ匠技AI、Wおどり炊き、加圧追い炊きポンプ、急減圧バルブ、高速交互対流、加圧熱風追い炊き、銘柄炊き分け73銘柄、食感炊き分け13通り、うるおいキープ保温、冷凍用ごはんコース、ワンタッチふた加熱板、圧力お手入れ機能
サイズ/質量:SR-X910E 幅28.6×奥行30.0×高さ22.9cm/約7.1kg、SR-X918E 幅29.2×奥行32.7×高さ25.8cm/約8.1kg

製品概要
パナソニック スチームオーブンレンジ ビストロ NE-UBS10E
価格:オープン価格
カラー:ブラック、オフホワイト
タイプ:スチームオーブンレンジ
総庫内容量:30L(ワイド&フラット庫内)
センサー:高精細・64眼スピードセンサー
レンジ出力:最高1000W/手動1000・600・500・300・150W相当・300Wスチーム
オーブン:2段調理コンベクションオーブン、70〜300℃
グリル:大火力極め焼きヒーター(平面)、両面グリル
主な機能:おまかせグリル、おまかせグリル&スープ、おまかせ熱風フライ、フライあたため、ワンボウルメニュー、スチーム機能、芯までほぐせる解凍、スマホ連携、自動お手入れコース
外形寸法/質量:幅494×奥行435×高さ370mm/約19.7kg
付属品:ヒートグリル皿1枚、角皿2枚、取扱説明書、レシピブック、使いこなしガイド

Gallery 【画像】パナソニックの調理家電を陰で支える調理ソフトの開発現場「Panasonic Cooking @Lab」の様子を写真で見る(25枚)
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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