なぜトヨタは“聖域”である「センチュリー」を大きく変えたのか? 豊田章男氏のひと言から始まった“新時代ショーファーカー”開発秘話
横置きPHEVも4WSもすべては「後席のため」
新しい「センチュリー」では、車体構造やメカニズムもすべて、「後席に最大限の快適性を提供する」という目的から逆算されています。従来の「センチュリー(セダン)」とは異なり、GA-Kプラットフォームをベースとするエンジンを横置きにするパワートレインを採用したのも、そのためです。
縦置きのレイアウトでは、フロントタイヤに対して運転席が後方へ配置されることになり、その分、キャビン内で前席が占めるスペースが大きくなります。そこで新型では、パワーユニットと運転席をできる限り前方へ配置。限られた全長の中で後席のレッグスペースを最大限確保しています。
このレイアウトによって、後席は座面を前方へスライドさせることなく、背もたれを53度までリクライニング可能。さらにシートを前方へスライドさせれば、最大77度のフルフラットを実現しています。
一方、キャビンとラゲッジスペースがつながった一般的なSUVの構造では、荷物が動く音やリアからのロードノイズが後席へ入り込みやすくなります。そこで「センチュリー」では、乗員空間とラゲッジスペースを厚いパーティションで隔離。その背後にV字型のブレースなど補強材を配置し、高いボディ剛性と遮音性を確保しています。
一見するとSUVのようにも見えますが、ショーファーカーとして求められる静粛性や乗員空間の独立性を優先した構造になっているのです。
パワーユニットには、3.5リッターのV6エンジンに、前後モーターと大容量バッテリーを組み合わせたPHEV(プラグインハイブリッド)を採用しています。これも単なる電動化のためではありません。
重要なVIPを乗せている際、突然のスケジュール変更や長距離移動が発生しても、「充電するために待ってもらう」ことは避けたい。PHEVなら、必要に応じてガソリンを給油すればそのまま走り続けられます。
一方、「センチュリー」を使うユーザーの日常的な移動距離を分析すると、90%以上が1日50km以下だったといいます。つまり日常の多くは、エンジンを始動せずEV走行で静かに移動することが可能です。

また、ホテルや施設のエントランスで待機する際にも、エンジンをかけずに空調やシートヒーターを使用できるという利点も。静粛性と移動の自由度を両立するという、ショーファーカーならではの理由でPHEVが選ばれています。
後輪操舵機能も同様です。一般的な4WSは、小回り性能やコーナリング性能の向上を目的として使われますが、「センチュリー」では「後席に座るVIPの頭をできるだけ揺らさないこと」が採用の大きな目的になっています。
ドライブモードで「リアコンフォート」を選ぶと、車線変更時には後輪を前輪と同位相へ制御。車体を大きく旋回させるのではなく、横方向へおだやかに移動させることで、後席に座るVIPの頭が左右へ振られるような横Gを抑えます。
●後席だけではない。“もうひとりの主役”はショーファー
開発チームが重視したのは、後席に座るVIPだけではありませんでした。もうひとりの主役として考えたのが専属ドライバー、つまりショーファーです。
章男氏や社内外のプロドライバーへのヒアリングを重ねる中で、開発陣は、ショーファーが想像以上に細かな気遣いをしながら後席のVIPをもてなしていることを知ったといいます。
同時に、後席のVIPもまた、長年ともに過ごすショーファーを家族のように信頼しているといいます。そこには単なる「運転する人」と「乗せてもらう人」を超えた関係がありました。
その思想が反映されたひとつが、プロが運転しやすいコックピットです。運転支援システムや車両姿勢制御によってドライバーの負担を軽減し、緊急回避時にもクルマ側が自然にサポートします。

「リアコンフォートモード」についても、開発陣は当初、「プロのドライバーの技術をクルマ側が補うのは、かえって失礼なのではないか」と考えたそうです。しかし実際のショーファーから返ってきた反応は、「後ろのVIPの方に気づかれず、より快適に過ごしてもらえるなら歓迎する。僕らも人間ですから」という言葉でした。
さらにインパネやセンターコンソールも、後席からドライバーの操作が必要以上に見えないよう設計されています。
スイッチ操作の手元や慌ただしい動きが後席から見えてしまえば、VIPに余計な気遣いや不安を与えかねません。そこで、インパネは後席からの見晴らしを妨げないよう低く構えながら、センターのタワーコンソールはドライバーの手元を自然に隠す形状としています。
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後席の広さを追求し、静粛性を高め、揺れを抑える。そして、その後席を支えるショーファーまで快適にする。新しい「センチュリー」は、従来のセダンをSUVへ置き換えたクルマではありません。乗る人と運転する人、その双方から「最高峰のショーファーカーとは何か?」を考え直した結果として生まれた、新時代の「センチュリー」なのです。
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