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クルマは“外に持ち出せる唯一の家具”!? レクサスやマセラティはなぜミラノデザインウイークに出展? インテリアスタイリストが読み解く「クルマが“空間”になる時代」

なぜクルマと家具が近づく? 「外に持ち出せる唯一の家具」という視点

 とはいえ、ブランドの世界観を伝えるだけなら、ファッションやアートのイベントでもよさそうです。それでも高級車ブランドと「ミラノデザインウイーク」の親和性が高いのは、クルマそのものが“移動する空間”としての価値を高めているからといえそうです。

 もともとクルマ好きの窪川氏は、その理由を「クルマはプロダクトデザインの集大成だから」と説明します。

 クルマは、ボディのエクステリアデザインだけでなく、シートや内装材、照明、スイッチ、ディスプレイなどのインテリアデザインも内包しています。メーターパネルなど計器類の造形には、時計にも通じるプロダクトデザインが息づいています。

 異なる分野のデザインをひとつのプロダクトへと高いレベルで融合し、その空間ごと好きな場所へと移動できる……。窪川氏の話を聞いていると、クルマはまさに“外に持ち出せる唯一の家具”のような存在だといえそうです。

「クルマはエクステリアだけでなく、インテリアという空間があり、メーターなど計器類には時計にも通じるデザインがあります。それらのプロダクトデザインを高いレベルで融合し、好きな時間に好きな場所へ移動できる。大好きな家具といっしょに外へ出かけることはできませんから、僕にとってクルマは一番“好き”が詰まったものなんです」

 さらにBEV(電気自動車)化や自動運転技術が進めば、クルマにおけるインテリアの意味は、これまで以上に変わっていくと窪川氏はいいます。

マセラティとジョルジェッティによる展示。マセラティ「グレカーレ」と家具を同じ空間に配置
マセラティとジョルジェッティによる展示。マセラティ「グレカーレ」と家具を同じ空間に配置

 ドライバーが常に運転操作をすることを前提とした「コックピット」から、乗員が移動時間を過ごす「リビング」に近い空間へ……そんな変化が進めば、自動車とインテリアデザインの距離はますます縮まっていくというわけです。

 2026年のレクサスが「SPACE」をテーマとし、「クルマが人を運ぶ」から「モビリティが人を空間ごと動かす」未来を表現したのは、まさにその象徴といえるでしょう。

●家具も「家具だけ」を売らなくなっている

 興味深いのは、高級車ブランドだけがインテリアの領域へ近づいているわけではないということ。家具ブランドの側も、家具という単体の商品から“空間全体”へとビジネスを広げています。

 窪川氏が近年注目しているというイタリアのポリフォームやモルテーニは、収納家具で培ったノウハウを生かしながらキッチンや建具などへと提案領域を拡大。さらにモルテーニは2026年、バスルームコレクションまで展開しています。そのブランドだけで家全体の世界観をつくれるほど、提案領域を広げているといいます。

 これは、ファッションブランドがホテルをつくり、服だけでなくそのブランドが考える“暮らし”そのものを体験できるようにする動きにも似ています。

ザハ・ハディド・アーキテクツとアウディが手がけた「Origin」。奥には「R26」が見える
ザハ・ハディド・アーキテクツとアウディが手がけた「Origin」。奥には「R26」が見える

 家具メーカーは「椅子やソファ」から「暮らす空間全体」へ。高級車ブランドは「移動する機械」から「移動する空間やライフスタイル」へ。両者がミラノで交わるのは、考えてみれば不思議なことではないのかもしれません。

 そしてもうひとつ、窪川氏は近年の「ミラノデザインウイーク」で、完成した新商品だけでなく、企業理念やものづくりの背景、製造工程までていねいに伝える展示が増えていると指摘します。本人はそれを、若い世代に広がる“推し活”に例えます。

 完成したアイドルが突然デビューするのではなく、その前段階から努力する姿や成長の過程を知り、応援していく。ブランドも同じように、完成品だけを見せるのではなく、「なぜこれをつくるのか」「どんな思想から生まれたのか」まで伝えることでファンを増やしているというのです。

630台限定の「ウルス SE “Tettonero”カプセル」の展示空間
630台限定の「ウルス SE “Tettonero”カプセル」の展示空間

 そう考えると、「ミラノデザインウイーク」における高級車ブランドの展示も見え方が変わります。

 そこで発信されているのは「このクルマを買ってください」という商品情報だけではありません。レクサスなら未来の「SPACE」を、マセラティならイタリアンデザインとクラフツマンシップを、アウディなら次世代のデザイン哲学を……それぞれが、クルマという完成品の向こう側にあるブランドの思想まで体験させようとしているのです。

* * *

 クルマは、エクステリア、家具のようなインテリア、時計にも通じる計器、さらには音や光までをひとつにまとめ、その空間ごと自由に移動できるプロダクトです。そしてBEVや自動運転の時代になれば、「走る機械」以上に「過ごす空間」としての価値が高まっていくことでしょう。

 クルマは“外に持ち出せる唯一の家具”――。

 そうとらえると、レクサスやマセラティが世界最大級のインテリアとデザインの祭典で未来を語ることは、もはや異業種の意外な参入ではなく、むしろ自然なことなのかもしれません。

Gallery 【画像】高級車ブランドが彩った2026年の「ミラノデザインウイーク」を写真で見る(30枚以上)
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