GT-Rに86GRMNにロードスター! 日本のスポーツカーの“座る”を支えたキーパーソンが明かすレカロの「シート開発の舞台裏」【Behind the Product#48】
GT-R、86GRMN、ロードスター12R、ランエボ……名車のシート開発秘話
ここからは、そんな大島氏に各自動車メーカーとのエピソードを聞いてみました。
まずは日産自動車から。
「“R35”『GT-R』用のシート開発は、ドイツ・ニュルブルクリンクでの極秘テストから始まりました。超高速域での限界走行時、フルブレーキングでドライバーが前すべりするのを防ぐ構造パーツが力負けし、変形するトラブルが発生。そのため、現地で構造を改修しました。極限状態でもドライバーの姿勢が一切ブレることなく、正確な操作に没頭できるよう仕立てていきました。
こうした技術革新の頂点が、『GT-R NISMO』の2014モデルと2020モデルに採用されたカーボンバケットシートです。2014モデルは超高剛性なカーボンシェルにより、激しい横Gでもドライバーの軸をブレさせない「圧倒的なホールド感」を実現。また2020モデルでは、カーボン骨格の構造自体を刷新することでさらなる軽量化と高剛性化を両立し、肩から腰にかけて身体を『面』で密着させ、車体挙動を寸分たがわず伝える究極のかけ心地を実現できたと思っています」(大島氏)
続いてはトヨタ自動車。
「初代『86』の構想初期、開発責任者の多田哲哉氏は純正シートとしてレカロの採用を模索していました。しかし、コストやサプライヤー構造の壁にはばまれ、残念ながら断念されました。
それでも我々との関係を継続され、100台限定販売となった『86GRMN』の専用シート(レカロ『スポーツスター』がベース)で花開きました」(大島氏)
筆者が知るところでは、当初は別のサプライヤーが「86GRMN」のシートを開発していましたが、上手くいかず。レカロに相談すると「一発解決」で採用となったそうです。
その後、「GRMNヤリス」に採用されたフルバケットシートは、大島氏によるとレカロ「SP-G」がベースで、サイドエアバッグを装着しながら激しい横Gに耐えるホールド性を両立させています。

「直近で手がけたのは、GRのモータースポーツ直系・究極のフラッグシップ『GR GT』用のシートですね。GT3カテゴリーを始めとする世界の頂点レースと、それと地続きの超高性能マシンにおいて、シートは単なる乗車スペースではなく、マシンの微細な挙動を全身で感知する“核心インターフェース”という役割を担っています。異次元のGやダウンフォース下でもドライバーの軸をブレさせず、寸分たがわぬマシンコントロールを可能にするシートになっています」(大島氏)
マツダの高性能スポーツカーにも大島氏が手がけたシートが採用されています。
「『RX-8』や歴代『ロードスター』で開発責任者を務めておられた貴島孝雄氏や山本修弘氏らとともに、タイトな室内空間における理想の座り心地を追求してきました。直近で手がけたのは、『スーパー耐久』レースの知見を惜しみなく注入したコンプリートカーである『マツダ スピリットレーシング ロードスター12R』用ですね。
タイトな室内にシートをミリ単位でフィットさせ、サーキットでの強烈な横Gに耐える抜群のホールド性と日常の乗降性を両立させています。実は当初、担当エンジニアの方は我々のシート採用に難色を示しておられましたが、実際に座っていただき体感してもらうことで納得してもらい、その後、いっしょに“いいシート”づくりをさせてもらいました」(大島氏)

スバル車とレカロの関係の深さは、STI(スバルテクニカインターナショナル)が生み出すコンプリートカーを見れば明らかです。
「STIのコンプリートカー『S203/S204』は、単体で100万円超レベルといわれるドライカーボン製のリクライニングバケットシート『SP-X』を純正採用。これは前例のないプロジェクトでした。
直近、登場した『S210』では、カーボンバック構造による軽量化と高剛性、高いホールド性に、電動リクライニングやシートヒーターといった快適機能を融合させており、至高のGTシートに仕上がったと考えています」(大島氏)
三菱車といえば、「ランサーエボリューション」シリーズとレカロとの深い関係性が見逃せません。
「『ランエボ』では、初代“エボI”から最終モデルの“エボX”に至るまで、長年にわたって純正採用していただきました。過酷なWRCでの走行に耐えうる高いホールド性を追求する一方、米国市場を始めとする厳格なグローバル法規や衝突安全基準をクリアするために、国内で専用の高剛性シート骨格を開発。激しいコスト交渉を乗り越えながら品質を磨き上げていったことは、今ではいい思い出です」(大島氏)
●メーカーの垣根を越えて技術を共有 “横串”をとおしたレカロ流シート開発
このように、自動車メーカーを横断してシート開発をおこなってきた大島氏ですが、メーカーの垣根を越えて技術の“横串”を通したこともあったそうです。
筆者が過去に取材したところでは、例えば、スバルとレカロが莫大な費用をかけて開発したサイドエアバッグ内蔵ノウハウを、トヨタの「86GRMN」などへ展開する際、当初、スバルからは「うちの投資で開発した技術をなぜ他社のモデルに使わせるのか?」と難色を示されたこともあったのだとか。そこで大島氏が間に立って双方の事情を説明し、他メーカーのモデルにも技術を展開できるよう調整したのだといいます。
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