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GT-Rに86GRMNにロードスター! 日本のスポーツカーの“座る”を支えたキーパーソンが明かすレカロの「シート開発の舞台裏」【Behind the Product#48】

“なんちゃってレカロ”ではない! 純正骨格を生かした「レカライゼーション」とは

 一方、大島氏はこれまでの枠にとどまらない、新たな提案もおこなっています。そのひとつが「レカライゼーション」です。

 きっかけとなったのは「レカロを採用したいけれど、現状のままでは採用できない」という自動車メーカーの困りごとでした。ひとつは、メーカー独自の厳しい衝突テストをそのままでは通過できないという「安全基準の壁」。そしてもうひとつは、軽自動車やコンパクトスポーツのタイトなキャビンにシートが収まらない「物理的な寸法の壁」です。

「その解決策として、自動車メーカーの衝突安全基準や車内寸法を完全にクリアしている純正のシートフレームを土台として使用。その骨格の上に、レカロ独自の密度・硬度の最適化を図ったウレタンフォームや面圧を分散させるウレタンパネル、中折れポイントの傾斜角度調整、背もたれ・座面の着座形状、補強パネルなどを精密に組み込むというハイブリッド構造を採用しています」(大島氏)

 この「レカライゼーション」は、スバル「WRX S4」と「レヴォーグ」、ダイハツ「コペン」、スズキ「スイフトスポーツ」などに採用されました。こうした事情を知らない人たちは“なんちゃってレカロ”と揶揄することもありますが、実際のところは「自動車メーカーの安全・品質基準」と「レカロの人間工学思想」を融合させるという、大島氏とレカロジャパンならではの柔軟で高度な職人ワザの結晶なのです。

 大島氏とレカロが追求してきた「正しく座らせる」技術は、クルマだけでなく日本の社会インフラのさまざまな現場をも支えています。例えば、東北・北海道新幹線のE5系・H5系「グランクラス」には、レカロ製シートが採用されています。

「回転機構や1万回以上の動作耐久試験、清掃時の作業性など、クルマ以上に厳しい基準をクリアしたものです。体格が異なる誰もがワンタッチで快適な姿勢をとれる可動構造を実現しています」(大島氏)

野球場のベンチに採用されているレカロ製シート。長時間の着座を支える技術は、自動車以外の分野にも生かされている
野球場のベンチに採用されているレカロ製シート。長時間の着座を支える技術は、自動車以外の分野にも生かされている

 加えて、スタジアムや特殊車両、さらには防災の世界にも採用されています。

「国立競技場やプロ野球スタジアムのベンチシート、24時間体制で司令をおこなう消防署や警察の監視席、さらには潜水艦の座席など、『長時間座っても疲れてはならない』、『過酷な現場で体を守る』ことが求められるあらゆる場所で採用いただいています」(大島氏)

●BEV時代にシートはどう変わる? 大島氏が見据えるレカロの次なる挑戦

 さらに大島氏は、新しい挑戦にも取り組んでいます。

「例えばBEV(電気自動車)はエンジン音がなく、一瞬で強力なトルクが立ち上がります。つまり、ドライバーが走行状態を察知するための『身体感覚』がガソリン車以上に研ぎ澄まされる必要があります。だからこそ、車体からの微細なインフォメーションを伝えるシートの役割は、これまで以上に重要になると思っています。

 そのひとつのアイデアとして、ウレタンやシェル内部にエキサイター(振動素子)を組み込み、シート全体をスピーカーとして振動・発音させる新技術を開発。静粛なBEVの車内で音と振動を身体全体で感じ取ってもらうという、新時代のダイレクトな走行体験・快適性をカタチにできないかなと考えています」(大島氏)

* * *

 近年、レカロジャパンを取り巻く経営環境は大きく変化しています。自動車用シート事業を担うRECARO Automotiveは2025年、イタリアのProma Groupの傘下で事業を再始動。同年11月には、日本法人も新たなグループ体制に加わりました。こうした変化の中、本国でさえも、かつてのモノづくり哲学が揺らぎそうになる場面があるといいます。それでもレカロジャパンは、「正しく座らせる」という思想を日本のモノづくりと融合させながら受け継いでいます。

 長年その最前線で日本のスポーツカーの「座る」を支え続けてきた大島氏は、今年で定年退職という節目を迎えました。大島氏の残してきた功績をひとつの記録として残しておきたい……そんな思いから、筆者はこの記事を書いています。

 レカロジャパン社長の山口充洋氏を始めとする仲間たちは、もちろん大島氏を簡単に「過去の人」とし、隠居させるつもりはありません。

「大島さんにはまだまだ手がけてほしいプロジェクトがあります。これからも継続して力を貸してほしいと考えています」(山口氏)

人体の骨格と着座姿勢を描いた設計スケッチ。身体を無理なく支え、自然に正しい姿勢へと導くというレカロのシート開発思想を象徴している
人体の骨格と着座姿勢を描いた設計スケッチ。身体を無理なく支え、自然に正しい姿勢へと導くというレカロのシート開発思想を象徴している

 そう強く望まれる声に背中を押されるように、大島氏の情熱と現場でのモノづくりは、カタチを変えてこれからも続いていくと信じています。

 自動車メーカーにも譲らないポリシーを持ってドライバーの姿勢と情熱を支える……大島氏が日本のスポーツモデルに刻み込んできた熱き「レカロイズム」は、時代が変わろうともブレることはありません。そして、彼の遺伝子を受け継いだ若くて熱いエンジニアが現場に存在する限り、日本の、そして世界の「座る」を支える哲学は、これからも確実に未来へと受け継がれていくことでしょう。

Gallery 【画像】日本のスポーツカーをシートからサポート! レカロジャパンの名作を写真で見る(28枚)

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