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GT-Rに86GRMNにロードスター! 日本のスポーツカーの“座る”を支えたキーパーソンが明かすレカロの「シート開発の舞台裏」【Behind the Product#48】

レカロはなぜ“座る”にこだわる? 60年以上受け継がれるシートづくりの思想

 ステアリング、ペダル、シフト……クルマとドライバーを結ぶ“接点”は多数存在しますが、その中で最も広範囲でドライバーを支え、車体と対話する上で一番重要なアイテムといえば“シート”でしょう。

 そんなクルマのシートにおいて、レカロ(RECARO)というブランドは特別な存在といえます。

 レカロの歴史を簡単におさらいすると、1906年にドイツ・シュツットガルトにおいて、馬車車体メーカーのロイター(Reutter)として創業。ポルシェ「356」などの車体製造を手がけた後、1963年に車体部門を売却し、シート専門メーカーのレカロ(REutter+CAROsserie)へと生まれ変わりました。

 1965年には、世界初の自動車用後づけシートとされる「RECAROスポーツシート」を発表。発泡ウレタンや特徴的なサイドサポートを採用し、機能性と人間工学、デザインを融合したシートの先駆けとなりました。

 その後、整形外科的(オルトペディック)アプローチを取り入れた自動車用シートを発表。「シートは単なる内装品ではなく、人間の身体を支え、走りを支える機能パーツである」という概念を提示しました。

 つまりレカロにとってシートとは、「座る場所」であると同時に「クルマの性能や挙動をドライバーへ正しく、正確に伝えるための最重要インターフェース」なのです。

 その信念の下、世界中の自動車メーカーやクルマ好きから信頼されるレカロ。そのシートづくりのこだわりは、大きく4つあります。

 ひとつ目は、数値ありきではなく「正しく座らせる」という目的意識。一般的なシート開発は人間工学を重視しながら、「規定の数値をクリアすること」が目的になりがちです。しかし、レカロでは「いかに自然に、正しい姿勢で座らせて疲労を減らすか」という目的のために数値が存在しています。

トヨタ「GR GT」に採用されたレカロ製スポーツシート。鮮やかなレッドの表皮と、身体を包み込む立体的な形状が印象的
トヨタ「GR GT」に採用されたレカロ製スポーツシート。鮮やかなレッドの表皮と、身体を包み込む立体的な形状が印象的

 例えば、ユーザーが意識しなくても、座った瞬間に最も理想的な着座ポジションへと正しく導かれる形状が追求されています。

 ふたつ目は「機能から生まれるデザイン」です。レカロではデザイナー自身が人間工学を熟知しており、設計者と対等に議論しています。そのため、見た目の華やかさを優先して性能を損なうことは絶対にありません。

 例えば、シートにあしらわれたステッチ(縫製)ひとつとっても、ただの装飾ではなく、大きな荷重がかかった際のカバリングの破れを防ぐ「機能的な補強」となっています。

 3つ目は「車体評価」を可能にする性能です。本当に優れたシートとは、ドライバーに「いいシートだ」と意識させるものではありません。逆に、過酷な限界走行においてもシートの存在を感じさせず、ドライバーが「車体の挙動や足まわりの評価“だけ”に100%集中できる状態」をつくり出すシートこそが、レカロの目指す理想です。

 そして4つ目は「開発者のパッション」です。過酷な現場へ自ら飛び込み、実車での実走データやドライバーの切実な悩みに向き合って改善を重ねるという現場主義が、世界でも名高い信頼性とホールド性能を支えています。

 このような妥協なき“軸”を持ち、自動車メーカーに対して対等に“物をいうこと”ができ、真のパフォーマンスを提案できる存在。それこそが、レカロが一目置かれ続ける最大の理由といえます。

●日本のスポーツカーの“座る”を支えたレカロジャパン大島正敏氏とは

 日本の主要自動車メーカーのスポーツ系モデルの開発者とシートの話をすると、必ず出てくるのが、今回の主役であるレカロジャパンの大島正敏氏です。大島氏こそが日本の名だたるスポーツカーの「座る」を裏で支え、第1線で仕立て上げてきた知る人ぞ知るキーパーソンなのです。

 大島氏は元々、大阪のシートサプライヤーである富士シートで設計のキャリアをスタート。多種多様なモデルのシート構造やアタッチメントを担当したそうですが、その中で決定的な影響を受けたのがダイハツのWRC(世界ラリー選手権)マシン用のシート開発だったといいます。

日本のスポーツカーのシート開発を長年支えてきたレカロジャパンの大島正敏氏(左)と、同社代表取締役社長の山口充洋氏
日本のスポーツカーのシート開発を長年支えてきたレカロジャパンの大島正敏氏(左)と、同社代表取締役社長の山口充洋氏

 激しい加振と猛烈な横Gが襲うラリーの過酷な現場で、「いかにドライバーの体をブレさせず、疲労を抑えて正確なステアリング操作に集中させるか」を追求した経験が、シート設計者としての骨格をつくったそうです。

 このときに培われた情熱と知見こそが、後に大島氏をレカロへと導き、日本のスポーツカーの「座る」を大きく変えていく原動力になったのです。

 2000年代初頭といえば、1988年に設立されたレカロジャパンが、日本の自動車メーカー向けOEM事業をさらに拡大しようとしていたタイミング。そこで大島氏に白羽の矢が立ちます。

 その背景には、日本の自動車産業の現場を知り尽くし、シートの設計構造を深く理解した上で、ドイツ本社と対等にキャッチボールをしながら日本のモノづくりを支えられる技術者としての高い評価があったといいます。

 大島氏は当時のことを、次のように振り返ります。

「富士シート時代から、個人的にもレカロのシートに注目していました。人間工学に基づいた妥協のないシート設計をおこなうレカロの環境に魅力を感じ、移籍を決意しました」

 そんなレカロの開発思想を象徴する有名なエピソードがあります。

 かつてトヨタの技術者が、ドイツのレカロを視察に訪れた際、「どんなテストコースや評価設備があるのか?」と尋ねたそうです。しかしレカロには、巨大な自社テストコースなどありません。開発責任者は次のように答えたといいます。

「重要なのは豪華な設備ではなく、いいシートをつくるための“パッション(情熱)”と、それを正しく評価できる人間の育成です」

 レカロの開発陣は「ニュルブルクリンク24時間レース」など極限の現場に自ら飛び込み、実車を走らせ、体の感覚とタイムデータからシートづくりを追求。現場で起こる“生”の現象に向き合い、ドライバーの痛切な悩みを解決していたのです。

シートの内部構造が分かるカット。表皮やウレタンだけでなく、その内側の骨格も、座り心地や安全性を左右する重要な要素となる
シートの内部構造が分かるカット。表皮やウレタンだけでなく、その内側の骨格も、座り心地や安全性を左右する重要な要素となる

 ちなみに、クルマ好きの中には「日本車の純正レカロシートも海外から輸入・供給されているもの」と思っている方が多いのではないでしょうか? しかし、事実は異なります。

 日本車に採用されるレカロシートの企画・設計・開発・テストのほぼすべては、大島氏率いるレカロジャパンの手により、日本国内でおこなわれています。日本の道路事情、日本人の平均体型、そして何より、日本の自動車メーカーが求めるミリ単位の厳しい寸法要求や品質・安全評価基準……それらを熟知したレカロジャパンが“レカロイズム”を注ぎ込み、日本車専用のシートをイチからつくり上げているのです。

 もちろん大島氏も、本国のエンジニアと同じパッションを胸に、日本の主要自動車メーカーのスポーツモデルの開発現場に常に立ち会い、現場で起きた“困りごと”を愚直に解決してきました。

 そこでおこなわれていたのが、「指摘された症状をいわれたとおりに対処しない」という大島流の本質解決です。

 自動車メーカーの評価ドライバーから「腰に違和感がある」「肩のサポートが足りない気がする」といった指摘を受けた際、一般的なサプライヤーはいわれた部位のウレタンを厚くしたり硬くしたりする「対症療法」をおこないがちです。しかし、大島氏は絶対にそれをしなかったといいます。

「腰が痛いのは、実は足元でペダルを操作する際の姿勢(骨盤の角度)が原因ではないか?」、「肩が浮くのは背もたれの中折れポイントの位置が合っていないからでは?」と、人間工学の視点から根本原因を分析。指摘された箇所とは全く別の部分、例えば、着座の深さやウレタンの沈み込み量をミリ単位で修正することで、ドライバーが「なぜかは分からないが、指摘した違和感がきれいに消えた」と驚くような本質的解決を幾度となく成し遂げてきました。

 もちろん、時には自動車メーカーと意見が食い違い、戦ったこともあるそうです。そうした、対等な立場で本音をぶつけ合うことで得た“信頼”こそが、日本のスポーツカーの「座る」を支えてきた足跡といえるでしょう。

NextGT-R、86GRMN、ロードスター12R、ランエボ……名車のシート開発秘話
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