なぜ半世紀を経ても美しいのか? いすゞ「117クーペ」の初期型がハンドメイドだった理由が物語る“名車の価値”【今こそ乗っておきたい名車たち】
ハンドメイドでしか実現できなかった美しきクーペ
効率至上主義が極まった感もある2026年。最新の電気自動車やハイブリッドカーが提供する“移動の正解”に食傷気味なクルマ好きも多いのではないでしょうか? アクセルひと踏みでシームレスに加速し、その気になれば指1本で車庫入れが完了……それはそれで素晴らしいことではありますが、そこに“情緒”という名の心地いいノイズが介在する余地はありません。
そんな時代を生きる我々だからこそ、心に深く突き刺さるスポーツカーがあります。それは、いすゞ「117クーペ」。
いすゞ自動車がまだ乗用車メーカーとして光り輝いていた1968年、同社が社運を賭けて投入したフラッグシップクーペです。スタイリングを担当したのは、当時、カロッツェリア・ギアに在籍していた若き日のジョルジェット・ジウジアーロ。彼が描き出したプロトタイプはあまりに美しく、当時のプレス技術ではその複雑な曲面を再現できなかったという逸話はあまりにも有名です。
結果、初期型の通称「ハンドメイドモデル」は、ボディパネルの大部分を職人がたたき出しで製作するという、正気の沙汰とは思えない(?)工程を経て世に送り出されました。その後、1973年のマイナーチェンジでプレス成型による量産化が図られ、1977年には角型4灯ヘッドライトの最終型へと進化。1981年まで生産が続けられました。
パワーユニットは、1.6、1.8、2リッターの直列4気筒で、当時としては画期的だったDOHCや電子制御燃料噴射装置(ボッシュ製D/Lジェトロニック)をいち早く採用。デザインのみならずメカニズムにおいても時代の先端を行く1台だったのです。

「117クーペ」の魅力は、単にクラシックという範疇には収まりません。なぜなら、ここまで“色気”のあるクーペというのは――決して「117クーペ」が唯一というわけでもないでしょうが、そうそう多くは存在しないからです。
フロントからリアへと流れるダイナミックなラインは、現代の衝突安全基準や空力理論から逆算された無機質なデザインとは対極。特にリアピラーからリアフェンダーにかけてのボディの絞り込みと、そこから続くテールエンドの美しさは気絶するほど官能的です。
そして室内空間。特にハンドメイド期のそれは、本木目パネルを贅沢に使用し、どことなく19世紀の英国製家具を思わせます。そして、メーターパネルに整然と並ぶアナログの計器類を眺めながら重厚なウッドステアリングを握る快感は、現代の新車の“なんちゃってレトロ”では決して味わえないものなのです。
また、実用性も意外と捨てたものではありません。これほど流麗なスタイリングでありながら、大人4名がフツーに座れるパッケージングを確保。まさにジウジアーロ御大の面目躍如といった部分でしょう。
●維持は楽勝ではないが……効率やタイパに少しでも疑問を感じる人に
中古車マーケットの現状に目を向けると、現在、いすゞ「117クーペ」の中古車は“二極化”が進行しています。
数年前までは“200万円台で程度のいい個体”という選択肢もありましたが、現在、ハンドメイド期(1968~1973年初頭)の車両はもはや“文化財”の域に。市場に出ること自体が稀となり、まともなものであれば価格は“応談”、実勢価格としては800万円前後か、上モノであれば1000万円を超えるケースも珍しくないようです。
丸型4灯ヘッドライトの量産期(1973~1977年)は、「117クーペ」らしさと実用性のバランスが取れている世代ですが、あいにくこちらも相場が高騰中。平均価格帯は350万円~550万円といった辺りで、特に1.8リッターのDOHCモデルは人気が高く、引き合いが絶えないと聞きます。
比較的流通量が多いのは角型4灯・最終期(1977~1981年)で、平均価格も250万円〜400万円ほどと、まあまあ現実的。もちろん、掲示した相場より安価な車両も散見されますが、それらは往々にして“サビとの戦い”など底なし沼への招待状である可能性も考慮しておいた方がいいでしょう。
いすゞ「117クーペ」は、決して“楽勝で維持できるクルマ”ではありません。現代のモデルのようにボタンひとつでおおむねすべてが解決するとか、ディーラーへ行けばほぼすべての面倒を見てくれる――なんてことは絶対にありません。
けれど、考えてみてください。我々が人生において本当に大切にしたかったものとは、「効率的である」とか「タイパがいい」などという、最大公約数的な正解だったでしょうか?
もちろんこの問いに対する回答は人それぞれであり、「うむ。自分は効率性や正確性こそが正義だと考える」とおっしゃるのであれば、それはそれで全くノープロブレムです。
けれど、もしも先ほどの問いに対して、何か少しでも「……」と思われるところがあったならば――無理にとはいいませんが、「117クーペ」の中古車をチェックしてみる価値は大いにあると考えます。まだそれが、一応、流通しているうちに、チェックしてみる必要があるのです。
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