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なぜ空冷式のポルシェ「911」は今も人を惹きつける? “ナロー”から“993”まで 最新モデルでは味わえない濃密な運転体験とは【今こそ乗っておきたい名車たち】

ファンを惹きつけてやまない濃密な運転体験

 AIが最適化したルートを、BEV(電気自動車)やハイブリッドカーが静々と走り抜けていく……そんな光景を眺めながら、筆者(伊達軍曹)はある種の“飢え”を感じていました。身体に伝わるエンジンの脈動、空冷ファンが奏でる乾いた金属音、そして、リアに搭載された水平対向6気筒エンジンがもたらす圧倒的なまでのトラクション。

 つまり“空冷”のポルシェ「911」に飢えているのです。

 あらゆる工業製品が快適性と安全性の檻に閉じ込められた昨今だからこそ、空冷「911」が放つむき出しの生命感に惹かれてしまう……今回は“ナロー”から“993”型まで、我々の魂を縛り続ける空冷「911」という呪縛について、その処方箋を再考してみましょう。

 1963年の誕生から1998年の“993”型の終焉まで、35年間にわたって生産された各種モデルを空冷「911」とひとくくりにして語るのは、ある意味、暴挙です。

 本来であれば、まだポルシェが一部の好事家だけのものだった時代の繊細な工芸品であった“ナロー”こと初代「911」(1963~1973年)、現在の中高年が子どもだった時代に“スーパーカー消しゴム”として握りしめた“930”型「911ターボ」に代表される“Gシリーズ”(1973~1989年)、空冷のダイナミズムを現代的な快適性(といっても、たかが知れていますが)で包み込んだ、空冷ブームの主役である“964”型(1988~1994年)、そして、リアサスペンションにマルチリンク式を採用し、空冷エンジン搭載「911」の完成形となった“993”型(1993~1998年)と、分けるべきなのかもしれません。

1963年から1998年まで、35年間にわたって生産された空冷「911」
1963年から1998年まで、35年間にわたって生産された空冷「911」

 それはさておき、空冷のポルシェ「911」全般に共通する魅力とは何か? と問われたなら、答えは「運転という行為に関する圧倒的な情報量」ということになるでしょう。

 現代のクルマ、例えば、最新世代に当たる“992”型「911」は、すべてにおいてあまりにも優秀すぎるため、いわゆるドライバーが介在する余地が少ないのです。

 けれど、空冷「911」は違います。オルガン式のペダルをていねいに踏み込み、もしも古い世代のMT車であれば“シンクロ”の機嫌をうかがいながらシフトを送り込む。そして、フロント荷重を意識しながらステアリングを切り込めば、フロントタイヤが路面をつかむ感触が、文字どおり“指先に”伝わってくるのです。

 さらには、エンジンとファンの音もシブい。冷却水という緩衝材を持たない空冷エンジンは、シリンダー内でガソリンが爆発する様子をダイレクトに耳に届けてきます。それは、ある種の人にとっては“騒音”かもしれないのですが、筆者には、機械が生を謳歌している“歌声”にも聞こえるのです。

 空冷「911」に乗るとき、我々は単なる“運転者”ではなくなります。緻密な機械製品の一部となると同時に、機械と対話する“オペレーター”にもなるのです。この濃密な体験こそが、空冷「911」がスポーツカー愛好家たちを惹きつけてやまない理由の、きわめて重要な1ピースなのです。

●経済的にはリスキーな行為かもしれないが……

 とはいえ、2026年現在、残念ながら空冷「911」の市場は、もはや“中古車選び”ではなく“資産運用”にも近い様相を呈しています。

 数年前に発生した異常なほどの価格高騰は若干、落ち着いてはいるものの、それでも、良質な車両はきわめて高額。具体的には、おおむね下記が目安となっています。

・“ナロー”:「応談」という名の、一軒家が買えるくらいの価格
・“930”カレラ:1200万円〜3000万円
・“964”カレラ2(MT):1500万円〜3000万円
・“964”カレラ2(ティプトロニック):1300万円〜2200万円
・“993”カレラ(MT):1700万円〜1800万円
・“993”カレラ(ティプトロニックS):1100万円〜2300万円

 空冷「911」を2026年の今、手に入れること、それは経済的にもリスキーな行為です。もちろん将来的に売却益を見込める可能性は大ではありますが、スマートかスマートじゃないかといわれれば、最新のBEVを1台と、プラグインハイブリッド車1台を買って2台体制を敷くくらいの方が、確実にスマートな人生ではあるでしょう。

1963年から1998年まで、35年間にわたって生産された空冷「911」
1963年から1998年まで、35年間にわたって生産された空冷「911」

 けれど、筆者を含む全員に訪れる“死の間際”に思い出すのは、静かに滑走したBEVの加速感なのでしょうか? それとも、自宅で充電していたプラグインハイブリッド車の後ろ姿でしょうか?

 多分ですが、いずれも違います。オイルの焼ける匂いを感じながら、夜明けの都市高速や快晴のワインディングで空冷「911」と格闘し、そして結果として上手に“踊らせる”ことができた日の記憶であるはずです。

 予算がどうだ、維持費がどうだと計算したくなる気持ちは分かります。筆者も大変遺憾ではありますが、いつだってカネのことばかり考えています。

 けれど、そんな計算が終わる頃には、おそらく空冷「911」はさらに遠い宇宙へと旅立ってしまっているでしょう。もちろん自己破産などを誘発するような無理はすべきではありませんが、もし、なんとかなるのであれば……清水の舞台から飛び降りてしまってもいいはずです。

 飛び降りた先には、どんな最新テクノロジーをもってしても味わえない、震えるほどの“生の実感”が待っているのですから。

Gallery 【画像】超カッコいい! 震えるほどの“生の実感”を味わえる空冷「911」を写真で見る(12枚)
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