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なぜEVになっても「ポルシェらしい」のか? デザイン・走り・シャシー構造から読み解く新型「カイエン エレクトリック」に息づく奥深き思想

なぜポルシェに見える? 守られたデザインの文法

 2002年のデビュー以来、“SUVでありながらスポーツカーの走り味”という、それまで存在しなかった価値をオーナーに提供し続けてきたポルシェ「カイエン」。「トランスシベリアラリー」における活躍、市販車開発の聖地であるニュルブルクリンクでのSUV最速記録といった歩みは、先入観への挑戦だったともいえるでしょう。

 そして2025年、「カイエン」はその歴史にBEV(電気自動車)仕様である「カイエン エレクトリック」という新たな章を加えました。2018年にデビューした3代目では、エンジン車とプラグインハイブリッド車を展開していましたが、今回そのラインナップに、新たに専用プラットフォームによる“フル電動”という3つ目のパワーユニットが加わったのです。

 この「カイエン エレクトリック」は、オリジナルのSUVとクーペというふたつのスタイルが用意され、「ベースモデル」、「S」、「ターボ」という3つのグレードで構成されています。

 なかでも、頂点に立つグレードの「ターボ」は、ポルシェの市販モデルで最強となる最高出力1156ps、0-100km/h加速タイム2.5秒という圧倒的な動力性能を実現。

 さらに、800Vの高速充電に対応する新開発の113kWhバッテリーにより、BEVで気になる航続距離もラインナップ最長で約642km(欧州参考値)を確保しています。

 しかし、ポルシェが本当に伝えたかったのは、こうしたスペックの一覧ではないようです。というのも、「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)」での日本仕様の発表会を通じて一貫して語られたのは、「BEVになっても、間違いなくポルシェである」というメッセージでした。本記事ではその理由を、デザイン、走り、軽快感という3つの視点から読み解いてみましょう。

ポルシェ新型「カイエン エレクトリック」
ポルシェ新型「カイエン エレクトリック」

 ひと口に電動化といっても、ポルシェのようなスポーツカーブランドにとっては単にパワートレインを変更するだけではありません。長年にわたって培ってきたブランドらしさ、すなわち“ポルシェらしさ”をどのように再構築して未来へと受け継ぐかという難題に挑むことでもあります。

 その問いに対し、ポルシェが示した答えは明快でした。新型「カイエン エレクトリック」は間違いなくポルシェである、ということです。

 ポルシェのデザインで一貫して守られてきたこと、それは初代「911」から今日のモデルに至るまで、機能と美しさ、ドライバーの感情を刺激するエモーションを高次元で融合させる、という思想です。

 今回の発表会では、ポルシェ本社のデザイナーとして活躍する山下周一氏も登壇。山下氏の「スタイリングだけでも、性能だけでもポルシェにはならない」というひと言がとても印象的でした。「遠くから眺めただけで胸が高鳴り、ステアリングを握る前から走りへの期待を抱かせること」……それこそがポルシェのデザインDNAなのだそうです。

 さらに山下氏は、ポルシェのデザインには4つのルールがあると続けます。

 まずは、流行に左右されない普遍的な美しさを追求し、50年後でも色あせないデザインを目指す「タイムレス」。そして、ボディサイズが変化しても路面をしっかりとらえる低くワイドなスタンスと、スポーツカーらしいプロポーションを重視する「プロポーションとスタンス」。

 そして、無意味な装飾は存在せず、すべての造形や開口部には空力性能や走行性能を高める明確な役割があるという「機能が形態を決定する」。そしてラストは、昼夜を問わず、ひと目でポルシェと分かるシルエットやディテールを備えることをブランドのアイデンティティとする「アイコニックなアイデンティティ」によって成り立っているのだそうです。

 このルールは、新型「カイエン エレクトリック」にも受け継がれています。開発では、「911」を象徴する“フライライン”と呼ばれる美しいルーフラインや、スポーツカーとしての純粋性、そして、SUVに求められる実用性や利便性という、それぞれ相反する要素をいかに調和させるかが最大のテーマとなったのだといいます。

 新型「カイエン エレクトリック」では、そうした考え方がさらに進化。張り出したホイールアーチによってワイドで力強いスタンスを実現するとともに、ドア下部やリアフェンダー周辺の立体的な造形によって視覚的な重さを軽減。SUVでありながら引き締まったアスリートのような印象を与えています。

 またボディ表面は、太陽光の当たり方や景色の映り込みまでが緻密に計算され、シャープさと官能性を両立しています。

 そんな新型「カイエン エレクトリック」を象徴するのが、デザインと機能性を融合した空力技術です。新たに採用された“アクティブサイドエアロブレード”は、速度や走行状況に応じてボディサイドのフラップが自動で作動。空力性能と走行安定性を高めます。

 この“アクティブサイドエアロブレード”は、本社のあるヴァイザッハのデザイナーと空力エンジニアが数百時間にも及ぶ検証と実験を重ねて完成させたもの。機能を美しいデザインへ昇華させるポルシェらしい思想を体現しています。空気抵抗値(Cd値)0.25という優れた空力性能は、美しい造形の裏側にある技術力の高さを物語ります。

 このように、新型「カイエン エレクトリック」のデザインは、BEVらしさをねらったものではないことが分かります。スポーツカーとして美しいからこそ、結果としてBEVとしても優れている……そんなポルシェらしい設計思想こそが、ひと目で「これはポルシェだ!」と感じさせるゆえんなのでしょう。

●“何度やっても”速い――ポルシェの真価を支える中身

 スポーツカー愛好家の多くは、「BEVになると、どのクルマも似たような走り味になるのでは?」と疑問を抱くかもしれません。それに対して、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長は、「走りの本質はモーターではなく、ドライバーの体験にある」と話します。

ポルシェ新型「カイエン エレクトリック」とポルシェ本社デザイナーの山下周一氏
ポルシェ新型「カイエン エレクトリック」とポルシェ本社デザイナーの山下周一氏

 今回の発表会において、ブッシュマン社長は「真のポルシェ」、「真の『カイエン』」というキーワードをたびたび口にしました。これは単なるキーワードではなく、ポルシェが考えるスポーツカーは、最高出力や加速タイムだけでなく、思いどおりに操ることができ、何時間でも走り続けたくなる、そんな高い完成度を備えたクルマであることを意味しています。

 もちろん、新型「カイエン エレクトリック」の性能は圧倒的です。トップグレードである「ターボ」は最高出力1156psを発生し、0-100km/h加速タイムも2.5秒と驚速。しかし重要なのは、そうした性能を一度だけではなく、何度でも安定して発揮できることです。

 そこで新型「カイエン エレクトリック」は、リアモーターに「フォーミュラE」由来の直接油冷技術を採用。高負荷走行時の性能低下を抑制しています。また、113kWhという大容量のバッテリーも、セルの両面から冷却する構造とし、出力性能だけでなく急速充電性能まで安定させています。

 さらに、最大600kWという強力な回生ブレーキも搭載しているのも特徴です。これにより、日常走行の減速の大半をモーターだけで賄い、エネルギーの回収と自然なブレーキフィールを両立。結果、車体姿勢が乱れにくく、コーナー進入時の安心感にもつながっています。

 加えて、シャシー制御も徹底しています。PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)つきエアサスペンションやリアアクスルステアリング、ポルシェ・トルクベクタリングプラス、そして最新のポルシェ・アクティブライドを採用。加速・減速・旋回時のロールやピッチを積極的に制御することで、大型SUVとは思えない自然な身のこなしを実現しています。

 こうした技術は、カタログを飾るためのものではなく、ドライバーが気持ちよく走れるようにするためのもの。ブッシュマン社長も「『カイエン エレクトリック』を理解する最良の方法は実際に運転すること」と話します。アクセルとブレーキ、ステアリングが一体となって生み出す自然な一体感こそが、BEVになっても変わらないポルシェらしさ。そんな自信の表れがブッシュマン社長のコメントからうかがえます。

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村田尚之
村田尚之
フリーランスライター・フォトグラファー
東京都出身。学生時代から雑誌の編集に携わる。自動車専門誌やメーカー広報誌などを手がける編集プロダクションを経て、2002年にフリーランスライター・フォトグラファーとして独立。クルマや旅客機、鉄道など乗り物関連の専門誌やニュースサイトを中心に執筆・撮影。『羽田空港アーカイブ1931-2023』(徳間書店)、『ANAの本。』(誠文堂新 光社)など書籍の制作にも携わる

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