711馬力のポルシェ新型「911ターボS」はなぜ85kg重くなっても“ニュル”では約14秒速くなった? サーキットで見えた“速さと扱いやすさ”の正体
85kgの重量増を速さに変えた711psのオールラウンダー
ポルシェ「911」シリーズにおけるひとつの頂点であり、象徴でもある「911ターボ」が、現行の“992.2”世代となり大きな進化を遂げました。2026年4月に日本で初めて実車が公開された新型「911ターボS」最大のトピックは、これまでの純粋な内燃エンジンから“Tハイブリッド”と呼ばれる電動ユニットへと移行したことでしょう。
3.6リッター水平対向6気筒エンジンには2基の電動エキゾーストガスターボチャージャー(eターボ)を組み合わせ、システム最高出力は711ps(523kW)、最大トルクは800Nmを発生します。しかも、最大トルクは2300~6000rpmという幅広い回転域において発揮され、最高出力も6500~7000rpmで維持されます。
一方、ハイブリッド化によって車重は先代より85kg増加しています。にもかかわらず、ニュルブルクリンクの北コースで7分03秒92を記録。これは従来型より約14秒速いタイムという、重量増という事実からは想像しにくい進化を遂げています。
では、なぜ重くなった新型「ターボS」は、これほどまでに速くなったのでしょう? そこには、単純なパワーアップだけにとどまらない、ポルシェならではの総合的な性能向上が隠されていました。その本領を垣間見るべく、北海道は十勝スピードウェイを訪れました。
なぜ85kgも重くなったのに約14秒も速くなったのか? 簡潔にいえば、新型「ターボS」は、重量増を上回るほどクルマ全体の性能を引き上げたからです。ポルシェ自身も、ハイブリッドシステムによる85kgの増加は、ドライビングダイナミクスに関係するあらゆる領域の改良により補われたものだとしています。

その改良は実に細部にまで及んでいますが、その一例がタイヤです。リアは従来型より10mmワイドな325/30ZR21を採用。711psを路面へ伝える上で、後輪の接地面積を増やしたことは出力とのバランスを取る上で重要な意味を持っています。
加えて、ブレーキが強化されたことも注目すべき点でしょう。標準となるPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)は新しいブレーキパッドを採用した上で、リアのディスク径が390mmから410mmへと拡大。フロントには420mm径を組み合わせています。
そして見逃せないのが、空力面の改善です。新型「ターボS」は、前部のアクティブクーリングエアフラップとアクティブフロントディフューザー、可変フロントスポイラーリップ、可変リアウイングなどを採用しています。
しかも、空力デバイスを最も効率的なポジションにセットした場合、空気抵抗係数は先代比で最大10%低減される一方、走行状況に応じてリフトや空気抵抗を抑えながら、必要な冷却性能も確保しています。
つまり新型「ターボS」の速さは、プラス85kgの重量増を受け入れた上で、タイヤとブレーキ、空力を始め、クルマ全体を一体的に進化させた結果といえます。
それは、レーシングドライバーであり、ポルシェのテストドライバーとして開発に携わったイェルク・ベルクマイスターが、重量増を感じるどころか、俊敏性とグリップが向上しているとコメントしたことからも明らかです。
●なぜ「911ターボS」には2基の“eターボ”が必要だったのか?
「911カレラGTS」にも採用される“Tハイブリッド”ですが、新型「ターボS」のそれには決定的な相違点が存在します。それは、「カレラGTS」では1基だった“eターボ”が2基となっている点です。
一般的なターボチャージャーは排ガスによってタービンを回し、その力でコンプレッサーを駆動して吸気を圧縮します。そのため、アクセルペダルを踏んだ瞬間からタービンが十分な回転数に達するまでの間、どうしても応答に遅れが生じてしまいます。その点“eターボ”は、コンプレッサーとタービンの間に電気モーターを組み込み、ターボのシャフトを直接駆動。排気エネルギーが十分に立ち上がる前から素早く過給圧を高めることで、レスポンスを向上させています。
ポルシェによると、新型「ターボS」が備えるタービンとコンプレッサーは“頂上モデル”としての要求に合わせた専用設計となっており、単なる出力向上だけでなく、パワートレインの応答性も向上しているとのことです。
そしてもちろん、2基の“eターボ”は、711psというハイスペックを語る上でも重要なポイントです。
大出力を得るためだけなら、より大きなシングルターボを採用するといった方法もあります。しかし、大型化すれば高回転域でより多くの空気を送り込める一方、過渡域でのレスポンスとの両立が難しくなってしまいます。

その点、2基にすればそれぞれのターボチャージャーを小型化でき、レスポンスがアップ。さらに新型「ターボS」は、2基目の“eターボ”によって排気エネルギーの回生能力も高まり、得られた電力をPDK内のモーターへ供給することで、システム全体の性能向上にもつなげています。
新型「ターボS」が求めたのは、最高出力の数値だけではなく、アクセルペダルを踏んだ瞬間からドライバーの意図を忠実に反映する加速です。しかも、システムには1.9kWhのコンパクトな高電圧バッテリーと電気モーターを内蔵した8速PDKが組み合わされ、4輪を駆動します。
そもそも“Tハイブリッド”は、燃費改善を主目的としたハイブリッドではなく、電動技術を使ってレスポンスや出力を高める“パフォーマンスハイブリッド”です。実際、その成果は数字にも表れており、0-100km/h加速タイムは2.5秒、0-200km/h加速タイムは8.4秒をマーク。従来モデルに対して、それぞれ0.2秒、0.5秒短縮されています。
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