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“ヤリス風”ミッドシップクーペに直4搭載の「GR86」!? トヨタが「スーパー耐久」に実戦投入した“次世代スポーツカー”の正体【Behind the Product#49】

なぜクーペに変身した? 「GRヤリス Mコンセプト」進化の理由

 一方、隣のピットで怪しいオーラを放っていたのが、クーペボディの「Mコンセプト」です。

 なぜハッチバックを脱ぎ捨て、クーペボディへと生まれ変わったのか? 開発陣に聞けば、その理由は極めてロジカルな“重心と空力”の要求にありました。

 背中にエンジンを抱えるミッドシップカーでは、重心が高いとコーナリング時の荷重移動が大きくなり、リアタイヤのグリップを失った際に唐突なスピンへとつながるおそれがあります。

 従来のハッチバックは車高が高く、ロールセンターと重心のズレも大きい状態でした。さらに、ルーフ後端で気流が激しく剥離して渦を巻き、リアウイング上面にクリーンな風を送り込めていなかったといいます。

 そこで、ルーフを大幅にチョップし、なだらかなクーペシルエットを描くことで初めて、フロア下のグラウンドエフェクトと大型リアウイングによる強大なダウンフォースを両立させ、リアタイヤを路面へ強烈に押しつけることが可能になったといいます。

 車体の中身も、もはや「GRヤリス」の面影はありません。プラットフォーム“改”の枠を完全に脱し、適所にカーボン素材を配したミッドシップ専用のカーボンハイブリッド骨格を新規設計。足まわりは前後ともにストラット式を採用していますが、これは軽量化とともに、将来プライベーターやカスタマーが現場でセッティングやアライメントを自在にいじり倒せる“整備性と汎用性”を見据えたこだわりの選択です。

 ちなみに、電子制御多板クラッチによる4WD機構“GR-FOUR”のトルク配分は、初期の「50:50」から「20:80」や「30:70」という明確なリア偏重へと進化。ターンイン時はフロントの駆動拘束を解いて鋭く向きを変え、クリップからは強大なリアトラクションで旋回力を生み出し、立ち上がりでわずかに残したフロントが脱出ラインを牽引する……というわけです。

トヨタ「GRヤリス Mコンセプト」
トヨタ「GRヤリス Mコンセプト」

「全日本ラリー選手権」の王者である勝田範彦選手をして「乗りこなせれば恐ろしい武器になる」といわしめる、異次元のコーナリングマシンへと変貌を遂げたのです。

●「ミッドシップはアクセルで曲げる」佐々木雅弘選手が示した新たな走法

 レースウィークでの気づきは、開発ドライバーの佐々木雅弘選手がもたらした“ドライビングのコペルニクス的転回”でした。

 従来のフロントエンジン4WDのように「コーナー奥深くまでブレーキを残して前荷重で曲げる」走りをすると、ミッドシップはリア荷重が抜けて破綻するか、ボトムスピードが落ちてしまいます。

 そこで佐々木選手がエンジニアに実演して見せたのは、コーナー手前でブレーキングをスパッと終わらせて空走区間をつくり、手前のクリップから一気にアクセルペダルを踏み込んで“リアの駆動力”でノーズをインに巻き込ませる走法。つまり“ミッドシップはブレーキではなく、アクセルで曲げる”ということです。

「この考え方を活かすことで、今後のクルマづくりはハード、ソフトの両方で大きく変わると思います」と、開発陣も確かな手応えを語ってくれました。

トヨタ「GRヤリス Mコンセプト」
トヨタ「GRヤリス Mコンセプト」

 もちろん、現場のリアルストーリーはひと筋縄ではいきません。レースウィーク中にはオルタネーター周辺が過熱して火の手が上がるトラブルに見舞われ、新搭載の6速MTはドライバーの体格差によるシフトリンケージのズレ(3速→4速のつもりが2速に入ってしまうワナ)という人間工学的な課題も浮き彫りになりました。

 しかし、メカニックとエンジニアは連日ピットに残って対策を施し、翌日には見違えるタイムをたたき出しています。この「壊しては直し、走ってはカイゼンする」アジャイルな現場力こそ、今のトヨタのクルマづくりの真骨頂です。

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